ヴィジュアル系界隈が最近ザワついていること

コロナ禍でバンドの解散・活動休止・メンバー脱退が発生したり、ライブハウスが閉店・休業したり、相変わらず音楽界隈は大変な事態が続いていますが、ヴィジュアル系界隈で先週末辺りに立て続けに大きめのコトが起きまして、割と動揺しています。

まず、MUCCのドラマーのSATOちが来年春での脱退を表明したこと。

脱退の理由は正味よくわかりませんが、バンド初期からずっとメンバーとして活動を続けて20年以上たってのその判断というのは、やっぱり今の状況が少なくとも一因であろう、ということは想像せざるをえず。

正味、ヴィジュアル系は他のジャンル以上にその運営をライブとそれに伴う物販に頼っているバンドが多く、その分コロナ禍の影響も大きく、活動休止や脱退もより多く見受けられます。
ただ、MUCCは武道館での公演を何度もソールドアウトし、幕張アリーナや代々木第一体育館でもワンマンを開催。かつROCK TOKYOやCOUNT DOWN JAPANへの参加など、規模も大きく、かつヴィジュアル系の「壁」を越えて活動できるバンドだったわけで、「そんなレベルのバンドでもそうなのか」的な静かな衝撃が、MUCC界隈だけでなく、若手のV系バンドマンやそのファンにもかなりの動揺を与えているように見えるのです。


そしてもうひとつのコトが、高田馬場AREA、池袋CYBERという若手ヴィジュアル系バンドの主戦場であったライブハウスが相次いで閉店を発表したこと。

若手ヴィジュアル系バンドマンの多くが板橋区に生息しているという話はよく聞きますが、正味板橋区に住む意味の半分が吹き飛ぶくらいの事態です。
というか、この2つのライブハウスがなかったら、まだワンマンまでは至らないバンドが4-5集まって実施する企画ライブとかどこでやればいいのか考えてしまう事態です。浦和まで行くのか。

AREAは2021年の年末までは営業、閉店の理由も入居しているビルの老朽化というコロナはあまり関係ない理由ですが、CYBERの方は年末に決まっていたイベントも飛ばしての即閉店という、なかなか深刻な状況。

だからCYBERに対しては、かつてライブを行って大きくなった方々が謝辞を述べるくらいしかできないのですが、

あと1年営業継続するAREAについては、まだ謝辞で締める状況ではないわけですが、それはそこ、もはやそのサイズの箱でやるレベルではないはずのダウトが、来年12月まで月1のライブをぶち込んでいます。
行動で示すの、かっこいい。

ただ、このライブもどういう客入りで行うのかは、今の段階では全く示すこともできず、というか来年1月からの1年間の月1ライブですから、各回でどういう客入れを行うのかということが、いろんな意味で物差しになるのではないか、とも思います。

ダウトかっこいい。頑張れ。
というか、こういう流れになると、この直前に出した「演歌歌謡バンド」のYouTubeがもうものすごく蛇足でしかない。
最後まで見たら結構面白いけど。

「もしもアウトブレイクが無くなったら」のこと

ライブハウス、四谷アウトブレイク店長の学くんと初めて会ったのはいつだったか。
彼がまだ店長ではなくブッキング担当だった頃、友達が主催していたイベントにDJとして呼んでもらった時に顔見知りになり、その後適当に渋谷とかにライブに行くとたまに彼も客としていて、その時は終演後に一緒に飲んだりして。
彼が店長になってからはなかなかそういうこともなくなったものの、代わりに友人のバンドがアウトブレイクで演る機会が増えてきて、そういう時に顔を出してはお互い生存確認をしてくだらない話をして笑って、みたいな感じで。

コロナ禍以降はできるところで通販等利用していたものの、なかなかライブに顔を出すことまではままならず、そのまま冬になり、本来「店長生誕祭ウイーク」としてアウトブレイクが一番頭悪くなる12月第1週、例年なら店長による人間魚拓等、あらん限りの滅茶苦茶を尽くすこの時期、それができない代わりに「もしもアウトブレイクが無くなったら」と題した、ある意味史上最強に狂った企画をぶち込んできました。

12月2日から6日限定、可能な限りアウトブレイク内にある「物」を全て搬出し、ただ「何もない」状態を見せるというこの企画。
店長自らハナから種明かししているように、元ネタは世田谷美術館のこの企画
それでもただのパクリで終わらないのは、世田谷美術館の館長をクロージングのトークイベントに登場させるところまで持っていくから。

で、本日の昼、実際見に行ったわけですが。

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全部撤去されたそのスペースに入った途端、爆笑して。でもそこにいると何かいろいろ思い出しながらしんみりして。
でも思ったよりは来なかった。普通でいられた。何でだろうと考えたら、受付に普通に学くんがいたから。
アウトブレイクに行くとき、その目的の半分くらいは彼に会うためだから。彼がいたらそこはアウトブレイクだから。

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今日、数十分程度ですがたぶん初めて、お互いシラフで、音楽の話とくだらない話以外のことを話しました。
ここまでけっこうドリンクチケットは溜め込んでいますので、今後また普通にやれるようになったら私はアウトブレイクでは常に酩酊していると思います。
とりあえず今後普通になって、普通にライブがあって普通に入場して酩酊が過ぎた時には介抱してもらえるよう、今の段階で学くんに依頼しました。
今後2度と学くんとシラフで話すことがありませんように。

イオンモール上尾に山野楽器の新店舗が入ること

12月4日、埼玉県上尾市にイオンモール上尾がグランドオープンいたします。
こういう立場なので、そういう商業施設にCD/DVDショップが入店するのかが気になるわけですが、今年100店舗以上の規模でオープンした商業施設で見るとこんな感じ。

06/05:Coaska Bayside Stores→くまざわ書店がCDも取り扱い
06/17:有明ガーデン→HMV SPOTが入店
06/19:イーアス沖縄豊崎→なし
06/24:JR横浜タワー→なし
09/14:ららぽーと愛知東郷→なし(TSUTAYAは書籍のみ)
11/20:心斎橋PARCO→なし
12/04:イオンモール上尾→山野楽器

正直こういう世の中でまだ頑張っている感はあり、そしてイオンモール上尾にも山野楽器がオープンします。

Coaska Bayside Storesは見学に行ったのですが、CD/DVD売り場は書店全体の面積に比べるとごく一部と言っていいですし、有明ガーデンのHMVもHMV SPOTという正味極小店と言っていいレベル。
それに比べると山野楽器は頑張っている、と言いたいところではあるのですが、たぶんそう言えない状況になるだろうと思うのです。

山野楽器の上尾の前の新規オープン店舗である南町田クランベリーモールの店舗を先日見学に行ったのですが、そのCD販売の割り切りっぷりにかなり衝撃を受けまして。
山野楽器はその屋号の通り楽器店であり、店舗は概ね楽器売り場とCD/DVD売り場を併設する形になっているのですが、南町田はもう本当にCD売り場が「おまけ」になっていて。
一応、店舗の入り口付近に陣取ってはいるのですが、棚に並んでいるのはその時の売れ筋と乃木坂とK-POPとジャニーズくらいで。商品種としてたぶん500種もないでしょう。
だから、多分イオンモール上尾もそれくらいの割り切りでくるのだろうなと思うのです。

というのも、くまざわ書店もいざとなったらCD/DVD売り場を撤収しつつ書店の営業を継続することができますし、HMV SPOTは床面積的に撤収を余儀なくされたとしてもダメージは最小限。そういう建付けであり、同様に山野楽器も最小限のコストでCD/DVDの展開ができて、いざとなったら全撤収します、くらいの感じになっているわけです。

正直、世のCDの売上の中で、店舗でうろうろしながら商品を品定めするような購入方法によるものは以前に比べて相当に減り、CD売上の相当な割合が予約によるものになっています。
だとすれば、予約の受付と商品引き取りの窓口さえあればいいわけです。

HMV SPOTという業態はまさにそういう窓口という割り切りによるものですし、書店との兼業、楽器店との兼業、という業態の場合は、いずれソフト販売の割合が削られていって、そして消えていくということを想定しての営業を行っていると考えていいのではないでしょうか。

銀座山野楽器本店は、恐らく現存する最古のレコード店です。そもそも楽器店だった店が蓄音機の扱いを開始し、当然その頃はソフト専門店などありませんでしたからソフトの扱いも開始して、蓄音機がゼンマイ式から電蓄になって、楽器よりは電化製品カテゴリになって以降は楽器とレコードの取り扱いという感じになったわけですが、始まりから一世紀以上経って、また楽器の専門店に戻っていくという、この時の流れよ。

渋谷と新宿のIKEAのこと

6月に原宿に出店したIKEAですが、渋谷新宿にも相次いで同様の都市型店舗を出店します。
その出店場所は渋谷・新宿とも、元FOREVER21が入っていたビルなのですが、渋谷の高木ビルディングの方はFOREVER21の前はHMV、新宿の新宿追分ビルはFOREVER21の前はVirgin Megastoreだったなあ、ということで。

全国的に市街地型の商業施設はどこもキツい感じになっていて、特に地方では、駅近の百貨店やショッピングセンターだった高層の建物が、閉店以降何も入らなかったり、あんまり何も入らないので老朽化した市役所がそのままそこに移転して使用することになったり、いろいろ大変です。
土浦市では、駅前のイトーヨーカドーだった建物が市役所です。屋上の看板がなんかかっこいいです。

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そこまでではなくても、川崎市の百貨店さいか屋の場合、元々地上8階地下1階の規模だったのが、2015年に閉店した後建て替えられてできたのは、地上2階の川崎ゼロゲートだったりとか。
川崎の都市規模であってももう駅前に百貨店クラスの規模の商業施設は求められていないという状況です。いや、川崎市の場合は市の北の方の場合、川崎の市街地出るより新宿や渋谷の方が出やすかったりもするのですけど。

東京都心については他にも死ぬほど商業施設があって、主要なブランドは既に出店しているという前提ではありますが、ある企業が撤退した後の建物をまた一棟貸しという形で契約してくれる新たな企業を探すのも一苦労、という状況になっているものと思われます。
IKEAの都市型店舗という新しい形態の店舗展開も、そういう物件が余りがちな状況があったからこそ可能だったんじゃないかと。

そして、渋谷・新宿ともCD/DVD→ファストファッション→家具・インテリアという流れになっているのは、これまさにそういうふうに時代は流れているのを体現しているようで、なかなか趣深いです。

ただすごく気になっているのは渋谷の高木ビル、搬入口が超狭いということ。これ本当に通販のショールーム的な位置付けにしかなりえないので、行く際にはそういう気持ちで赴きましょう。

あと、静岡県のCDショップチェーン、イケヤを検索しようとすると、「もしかして:ikea」とか言ってIKEAばっかり並べやがって、俺が見たい情報を完全に押し流すGoogleには、何がしかの罰を与えたいのですがどうしたらいいでしょうか。

最近のブログ運営のこと(業務連絡的な)

ここんとこ更新頻度が著しく落ちておりまして、それについていろいろ言い訳しておこうかと思いました。

更新頻度が落ちている理由は、正直「降りてこない」からです。
多分、今の状況下で、いろんなインプットが不足したり変化していることで、これまである意味ルーチン化した形で出てきていたアウトプットが、これまでのように出てこなくなってるんじゃないかと思います。正直よくわかんないんですけど。

それで書いてない分の可処分時間をどうしているかというと、開店閉店ブログの方に主に費やしています。
CD販売店の履歴は2010年頃から追っていますが、TSUTAYAとかレンタル店についてはリアルタイムで追っているのは2015年以降ですので、今2015年以前のレンタルやユーズドショップの開店閉店をWEBアーカイブとかをガンガン掘っくり返しては拾っています。そこら辺だけでこの半年で500以上増えているはずです。

「アイドル有料単独公演の最大キャパ」については、けっこう本気で考えた結果、今の状況が改善するまではまとめないことにします。
有観客でライブ行っているグループもだいぶ増えてきましたが、「会場定員の半分を動員の上限にする」とか「観客500人をMAXとして、でも会場はZepp」みたいな事例ががんがん出てきている中、それ以前と同列に並べて同じように比較するのはどうなのか、と考えたらやっぱそれはナシじゃないかと思うのです。

とはいえ、今後通常通りのライブが再開できるようになった時、今のそういう事例を全く並列に並べることは無理としてもでもグループとしてZeppでやったことは事実であり、それを全無視するのか、と考えるとそれもちょっとないよなあ、と思う。

ということで、これはまだ結論出ていません。考えます。

そんな感じです。ただ、ブログで書くところまで詰め切れない事柄が増えた分、Twitterは多分以前より多少増えているような気もしますので、併せてご確認いただけると幸いです。
これからもよろしくお願いします。

第71回紅白歌合戦の出場者傾向のこと

紅白の出場歌手、出ました。
いろいろトピックスはありますが、何か今年は事前の噂ネタの露出が随分少なかったような気がします。
正味あちこち顔を出したりくっついて歩いてはネタを拾うという芸能記者の例年のパターンが今年は不可能だったからだと思います。

まず事務所の切り口で見ると、ジャニーズのインフレ止まらず今回のSixTonesとSnow Manを入れて合計7組。まあこの2組はどっちか出してどっちか出さないということもできませんので、これは既定路線。
今回気になるのはアミューズのシェア。福山雅治、Perfume、星野源の固定組にプラスして今年はBABYMETALと司会の大泉洋追加。徐々に拡大しています。

レーベルとしては、ただでさえ強いソニー系がさらに躍進した感じがします。元々坂道系は全部そうですが、既存組では他にもFoorin、MISIA、LiSA、リトグリ。初登場を見てもJUJUとmiletはレーベルも事務所もソニーですし、SixTonesのレーベルはSMEでNiziUはエピック。再登場組では鈴木雅之も。もう圧倒的です。
かつてはゴリゴリに言わせまくっていたエイベックスは、今回は瑛人、Kis-My-Ft2、GENERATIONS、Snow Manということで、ジャニーズとLDHと流行ったのに乗っかった事例だけですから、相当に差がついてしまいました。

ただ、それよりも何よりも、AKB48が出ないことよりも、ミスチルが12年ぶりの出場なのにファン以外にはあまり話題になっていないことよりも、今回ビビったのは紅組の演歌勢の削減。
とりあえず例年通りの出場歌手中の演歌のシェアを。

2003[紅:11/31 白:10/31]
2004[紅:10/30 白:09/28]
2005[紅:09/31 白:10/31]
2006[紅:11/27 白:09/27]
2007[紅:10/31 白:08/27]
2008[紅:09/26 白:08/27]
2009[紅:08/25 白:08/25]
2010[紅:08/22 白:05/22]
2011[紅:08/25 白:06/25]
2012[紅:07/25 白:05/25]
2013[紅:07/25 白:06/26]
2014[紅:07/27 白:05/24]
2015[紅:07/26 白:06/26]
2016[紅:07/23 白:05/23]
2017[紅:07/23 白:05/23]
2018[紅:06/22 白:05/22]
2019[紅:06/21 白:05/20]
2020[紅:04/20 白:05/21]

紅組は例年、石川さゆり・坂本冬美・天童よしみ・水森かおりの4枠は2003年以来固定、残り2-3枠はちょいちょい入れ替わっておりまして、そこが未出場の女性演歌歌手の希望でもあったのですが、その2枠が一気にばっさりやられました。

白組の5枠は純烈も入れての数ですが、五木ひろし・氷川きよし・三山ひろし・山内惠介の4人の並びはまだ5年程度なので、希望はあるかもしれません。というか純烈気にする前に、今の氷川きよしは演歌の枠で数えていいのかという迷いは正直あります。そもそも今の氷川きよしは白組でいいのかという点については、考えないようにします。

ここで、演歌で今年リリースしたシングルの売上上位ベストテン。確認できた限りですが。太字が今年の出場歌手。

紅組 売上(順位)   白組 売上(順位)
水森かおり 29,200(4)   氷川きよし 67,500(2)
丘みどり 26,200(13)   純烈 50,000(5)
市川由紀乃 14,300(11)   山内惠介 48,100(3)
椎名佐千子 9,300(16)   三山ひろし 24,000(9)
岩本公水 8,100(13)   辰巳ゆうと 21,600(7)
杜このみ 7,900(11)   中澤卓也 21,200(10)
森山愛子 7,000(19)   真田ナオキ 18,600(17)
川中美幸 6,400(34)   福田こうへい 17,800(10)
島津亜矢 5,600(32)   竹島宏 13,100(10)
葵かを里 5,500(25)   新浜レオン 11,800(7)
         
天童よしみ 4,700(32)   五木ひろし 8,000(18)
石川さゆり 400(94)  
坂本冬美 ---(--)  

この男女の差がいろいろ示しています。紅組の2枠がなくなったことがどれだけ女性演歌歌手にとって悲しいことか推測していただけるかと思います。

ただ、この表作っていて結構驚いたのが、演歌歌手のシングルの今年の売上が総じて落ちていること。去年同じことをやった時の数字がこちら。相当減ってます。
演歌歌手の皆様もさすがに今はほぼストリーミングに楽曲は出していますが、それが原因とは思えない。

これは、一部のトップ歌手を除いてリリースのたびに地道に行っていた、ドブ板レベルで各地を回るキャンペーンが今年はなくなってしまったことと、演歌の購買層が総じて外出を控え気味であったためにリリース情報を得られなかったり、店舗に赴けなかったりした、ということではないかと思います。

それにしてもこの猛烈な減りっぷり。図らずも演歌は既にアイドル並みかそれ以上に固定層に支えられているジャンルであるということが察せられるわけでございます。
男性歌手の方が全体的に減少の割合が低く済んでいるのは、やっぱり女性の方がガチofガチなコア層が厚いということでしょうか。女子はいつだって女子です。

あと、坂本冬美は上の表では値が入っていませんが、新曲のリリースが先週でまだ数字が出ていないからです。
そしてその新曲は桑田佳祐作詞作曲の「奇曲」と呼んでいいレベルの凄まじい出来。これを紅白で歌うのを待っています。
石川さゆりは例年のルーチンで行けば今年は「天城越え」の予定です。

The Beatles楽曲の60-70年代のカバー集のこと

カバー曲を探すのもずいぶん楽になりました。よほどベタなタイトルでない限りはストリーミングサービスで曲名検索かければアホみたいに出てきます。
輸入盤屋で時間かけて店頭に並んだCDシングルの裏面見ては曲名読み込んでいた当時の自分は何だったんだろう。

で、そういうふうにしてカバー聴きまくっていた頃からずっと思っていたのが、The Beatlesのカバーは数の割には「面白いカバー」が少ないということです。
「そう来るの?」というセンスに驚き、元曲を換骨奪胎するようなアレンジや歌唱を面白がるのが、カバー曲聴きの醍醐味だと思っているのですが、The Beatlesのカバーは、コピーの範疇を越えないものや、アコースティックでシンプルな、悪く言えば冒険心のないアレンジのものが非常に多く。
もちろん、YMOの「Day Tripper」や金沢明子の「イエローサブマリン音頭」、NMEが1986年にリリースした、当時の若手中堅ニューウェイブバンドで「Sgt. Peppers」13曲をカバーしたアルバム(「A Day In The Life」はThe Fallとか)など、あからさまに無茶しているものもあるにはあるのですが、割合としては圧倒的に少ないです。

何となく理由はわかるのです。元曲はとてつもなく広い層に知られ、かつカバーする方にとっても神のような存在。そんな元曲をぶっ壊したり弄り倒したりすることは非常に勇気のいることで、他の人たちの楽曲を取り上げるよりもハードルは相当に高くなるのだろうと。

で、先日タワレコに行って見つけたのが「Looking Through A Glass Onion」というコンピ盤。
「The Beatles' Psychedelic Songbook 1966-72」という副題通り、The Beatlesの活動中から解散直後、ほぼ同時期に活動していたアートロック・サイケ系のミュージシャンによるカバー集です。
Deep PurpleやYes、CamelやSpooky Toothといった知られた名前から、Ian GillanがDeep Purple加入以前に在籍していたEpisode Sixとか、更に本当に名前も聞いたことないバンドまで、CD3枚組68曲。

正直、これが滅茶苦茶面白いのです。
ハードロック化する前のDeep Purple「Help」やプログレ化する前のYes「Every Little Thing」あたりはアルバム収録曲でそこそこ有名ではあるのですが、そういう後にモンスターバンドになる人たちの黎明期の音源というだけでも面白いですし、その他有象無象による、そして業界のトップとはいえ同時期の現役ライバルだった、まだビビられる存在になる前のThe Beatlesの楽曲を割合好き勝手にアレンジしてやっています。

当のThe Beatlesの1st/2ndアルバムも14曲中6曲はカバーだったように、1960年代半ばくらいまではカバー曲は今よりもごく普通な存在で、アルバムと言ってもオリジナルのヒット曲以外はおよそカバーで埋める、なんてことも珍しくなかった時期。
このアルバムに収められた楽曲の中にも、そんな流れで作られたものも多いと思います。だからか、68曲は玉石混合、忙しかったのかロクにリアレンジもせずコピーしているだけのものもありますが、ある程度は選りすぐられたであろうこのコンピ盤、全体的には面白く、かつ資料的価値も高いのではないかと思います。

こんなコンピ盤を作るのは、やっぱりCherry Redレーベル。80年代のマイナーバンドのCD化からどこから持ってきたのかもわからない50-60年代の謎の音源のコンピ盤制作まで。
こんな時代だからこそ、こういう企画力と実行力、大事です。


ダバダバコーラスからハードロック的イントロ、そしてソフトロック的な歌へ。もう頭おかしいのだけど、まだジャンルが未分化だった頃の何でもあり感。

ブラスが死ぬほどかっこいい。多分こういうアプローチが後のブラスロックに繋がっていくのですね。

The Beatlesの先輩格のインストバンドによる名カバー。元曲にはまだなかったインド風味をぶち込んだ挙句にボ・ディドリー。これ最高だ。

武蔵小金井のレコファンがオープンしたこと

本日、11月1日に正式オープンした武蔵小金井駅前のドンキホーテ内にオープンしたレコファンに行ってきました。

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あからさまに渋谷から持ってきた看板ですが、店舗は思ったより広い。記憶の限りでは、渋谷・横浜2店体制になる直前まで営業していた大森店くらいのサイズでしょうか。
ただ、何か壁とか看板とか作り付けの仕込みをしたしっかりした店構えではなく、秋葉原の元々期間限定だった店舗と同様、什器を壁代わりにぐるりと囲んだだけの簡易的な構造。

そして品揃えはというと、圧倒的にCDが多い。
ここ数年、メジャーなチェーンが新店を出す場合、タワーでもHMVでもディスクユニオンでも「アナログを売る」方針で出店をしているわけですが、この小金井の店舗は全くそんな気配なく、品数的にはCD9割、アナログ1割くらいの感じで。一応店の入り口入った一番いいところにアナログ置いてはあるんですけど。

そういう状況、これ恐らく「これから末永くこの地で商売を続けていくぞ」という志での出店ではないと思います。
渋谷店でがんがん閉店セールをしたところで思うようにCDの在庫ははけず、しかしCDというメディアのタイムリミットは近付いているという判断のもと、とにかく早いところその在庫を減らしたいというのが最大の目的ではないかと思うのです。
正味、レコファンの中古盤は誰のどの作品が何枚ある、みたいな形での一括管理はされていませんので、大々的に通販しようにもその入力だけでドえらい仕事になります。
ですので、できるだけ安く借りられる店舗でもって売りまくるというのが一番コスト的にもよろしいのではないか、という推測もできます。

頑張って売りまくっていただきたいと思います。
俺、新譜1枚買っただけなので、ごめんなさい。また行きます。
しかしかつては10店舗以上の店舗網、ついこの間まで渋谷・横浜の2店体制だったのが、現在は秋葉原・武蔵小金井の2店体制というのは、非常に微妙な状況ということは間違いありません。

SNS発ミュージシャンのメディア展開のこと

SNSで注目され、CDをリリースせずに主にストリーミングサービスで楽曲をリリースして聴かれてきたミュージシャンが、そろそろ次のステージに移行し始めています。
各人、きちんと音楽で食べていけるようになるため頑張っているのですが、やっぱりよくわからないところもあり。

■YOASOBI
彼女たちのメイン職場になっている小説投稿サイト「monogatary.com」はソニー・ミュージック・エンターテインメントによる運営ですから、当然彼女たちの所属もソニー。
来年1月6日にようやっと初めてのパッケージ、EP「THE BOOK」のリリースが決定しています。既発5曲+新曲1曲収録ですので、これまでの通例通りの「限定盤」+「通常盤」みたいな売り方をした場合には、通常盤は恐らく2,000円程度の値付けになるかと思うのですが、もうそういう世の中ではなく、特製バインダー豪華仕様の完全生産限定盤4,500円のみリリースという形。

CDはもう「ファンアイテム」であり、ライト層はサブスクで聴いてもらえればOK、という確固たる思想の元、店頭を含む在庫をできるだけ圧縮するところまで含めて利益率を上げてビジネスとして立たせようという試み。
かつこのリリース日は、明らかに中高生のお年玉バブル期を狙っています。例年通り新年の親戚回りができるかどうかはそこ課題ですが、もし彼女たちが紅白等年末の音楽番組に出演しようものなら、さらに数を狙えます。
たぶん今頃、入ってきている予約数や内々で決まっているいろんな情報を睨みながら、イニシャルの数を必死こいて決めようとしている頃ではないかと思います。

■瑛人
彼は今のところまだ単独のCDリリースについては一切アナウンスされていません。
が、事務所としてはセツナインターナショナルに所属したということで。森山直太朗の事務所というか、共作者の御徒町凧が社長やってるところです。
テレビ出演については恐らく事務所に所属したからというのがあるのでしょうが、正直彼についてはこの先もよくわからない。

ただ、「単独のCDリリース」という言い方をしたのは、本日10/28リリースでCDも出ている加藤ミリヤのトリビュートアルバムに参加しているからです。
でも、そこに収録されている「Love Forever」のカバーは、「歌い手」のyamaとのコラボ名義でそのサウンドプロデュースは川谷絵音という、盛り盛り過ぎてよくわからない状況。
とりあえず、加藤ミリヤもyamaも現在ソニーミュージック所属なので、瑛人もソニー絡んでるのかなあ、と思う程度です。

■Novelbright
彼らは2013年結成で、これまでにけっこうな数のCD-RとかCDはリリースしているのですが、2018年以前のものは現在すべて廃盤。
今のところ2018年10月と2019年7月のミニアルバムと2020年5月のフルアルバムは入手可能。そしてその後8月にはユニバーサルからのメジャーデビューを発表。言うても5月のフルアルバムの段階で流通がユニバーサルになっていますので、この時点でだいたいメジャー状態ではあったのですが。

で、配信シングルをリリースし、これからガンガン行くぜというそのタイミングで今月まさかのメンバー全員コロナ感染。ひとりの漏れもなく。まあバンドという形態である以上そうなるのも止むを得ない。
ただ、そうなる前に録音していた新たな音源が先日リリースされたのですが、それがビリー・アイリッシュ「bad guy」のカバー。
彼らって、美しいメロディと張りのある歌声が受けて注目されたと思っていたのですが、そこから全速力で逆らう感じのそれ。「新たな一面を」とかまだそんなこと言い出すタイミングではないと思うのです。
正直カバーとしては滅茶苦茶かっこよくて大好きなのですが、でもやっぱり意図がわからない。

カバーアルバムのこと

昔、「カバーアルバムデータベース」というのをやっていたのですが、十数年前にやめました。
主に日本でカバー曲ブームというのが勃発してリリース量がエゲツないことになったのと、配信のみ楽曲とかアルバムリリース時の店舗別特典CDのみ収録の楽曲とか出てきてとても拾い切れなくなってきたことが主な理由です。

海外のカバー曲ブームは一時期と比較すると相当に落ち着いているのですが、日本では相変わらず「カバーアルバム」がリリースされています。
今年に入ってからリリースされた「ひとりのシンガーによるカバー曲アルバム」は、ざっくり拾っただけでもこれだけありました。

01/29:佐咲紗花 / SAYAKAVER.2
02/12:堀江美都子 / One Voice
03/25:H ZETTRIO / SPEED MUSIC - ソクドノオンガク vol.1
04/22:カノエラナ / 『尊い』~解き放たれし二次元歌集~
04/22:佐藤竹善 / Rockin' It Jazz Orchestra Live in 大阪 ~Cornerstones 7~
05/13:絢香 / 遊音倶楽部~2nd grade~
06/17:藤田恵美 / ココロの時間
07/29:ジェジュン / Love Covers II
08/26:五木ひろし / 演歌っていいね!
08/26:Ms.OOJA / 流しのOOJA~VINTAGE SONG COVERS~
08/30:鬼龍院翔 / うたってきりりんぱ
09/16:森口博子 / GUNDAM SONG COVERS 2
09/23:オオヤユウスケ / STEREO #2
09/23:Kitri / Re:cover
10/14:原田知世 / 恋愛小説3~You & Me
10/21:JUJU / 俺のRequest
10/21:町あかり / それゆけ!電撃流行歌
10/21:マーティ・フリードマン / TOKYO JUKEBOX 3
11/18:宮本浩次 / ROMANCE
12/02:城田優 / Mariage
12/09:Wakana / Wakana Covers ~Anime Classics~

また、「トリビュートアルバム」も、海外では1990年代にインディーズレーベルで「トリビュートアルバム」を出しまくる事態があったのですが、日本には何故か2000年代以降に飛び火し、というか主にソニーがことあるたびにトリビュートアルバムをリリースするようになりました。
今年になってからも4月にサンボマスター、9月に9mm Parabellum Bulletのトリビュートアルバムがリリースされています。

正味、カバーアルバムって便利なんですよ。
まず新曲を書かなくてもいい。筆が遅い人が契約をやっつけるとかのためには実に具合がいいです。
ミュージシャンもやりたい人は多いし、レーベルとしてもウェルカムなことが多いので、そりゃ出ます。かつさして有名ではない人でも有名な曲でそれなりに制作することができれば、聴いた人の耳を引き「これ誰?」みたいな形で認知も上げられますし、考えてみてもデメリットが見つからない。
トリビュートアルバムの場合は、元曲のミュージシャンは元より、カバーする方のファンの購入も見込めるので、ビジネス的なメリットも大きいのではないかと思います。

くらいの考え方でずっと来ていたのですが、でも最近は何となく別のニュアンスがあるような気がしていまして。
今年の場合は、ライブができない分リリースを増やすためにこういうアルバムを出すというのはあると思うのですが、ここ最近、今年であればJUJUや宮本浩次に顕著なのですが、あまりマイナーな曲を選ぶことなく知名度の高い「過去の名曲」を選んでくることが非常に多くなってきている気がします。

そこにビジネスとしての狙いがあることには間違いないとは思うのですが、JUJUの場合はファンからのリクエストが選曲がベースになっていて、このアルバム自体がファンサービスになっている。宮本浩次の場合はそもそも彼の歌うたいとしてのベースが歌謡曲にあるので、そのルーツを知ることができる形になっています。

そして、そういう「過去の名曲」を選んだ形になるのには、新たな「国民的ヒット」が過去最強に生まれにくくなっている今の世の中、過去の国民的ヒット曲を今の世の中に引き継いでいかなければいけないという意図を感じられて仕方がないのです。
新たに生まれないのであれば、今あるものの延命を図る。
果たしてそれが最適解なのかどうかはわかりませんが、今思い付く限りのことをするとすれば、そうなるのかとは思います。

ちなみに、「トリビュートアルバム」というのは、戦後のジャズではものすごい数が出ているのですが、ロック&ポップスとしては、過去調べた限り海外ではUKで1988年にJoy Divisionのが出ているのが自分の知る限り最古、1990年にニール・ヤングのチャリティ・アルバムとして「The Bridge」がリリースされたことで一般的認知が拡大したという認識。
日本では1995年にSIONの楽曲をカバーしたトリビュートアルバムがインディーズでリリースされたのが最初だという認識ですが、それ以前があったら教えてほしいです。
割と本気で。