The Beatles楽曲の60-70年代のカバー集のこと

カバー曲を探すのもずいぶん楽になりました。よほどベタなタイトルでない限りはストリーミングサービスで曲名検索かければアホみたいに出てきます。
輸入盤屋で時間かけて店頭に並んだCDシングルの裏面見ては曲名読み込んでいた当時の自分は何だったんだろう。

で、そういうふうにしてカバー聴きまくっていた頃からずっと思っていたのが、The Beatlesのカバーは数の割には「面白いカバー」が少ないということです。
「そう来るの?」というセンスに驚き、元曲を換骨奪胎するようなアレンジや歌唱を面白がるのが、カバー曲聴きの醍醐味だと思っているのですが、The Beatlesのカバーは、コピーの範疇を越えないものや、アコースティックでシンプルな、悪く言えば冒険心のないアレンジのものが非常に多く。
もちろん、YMOの「Day Tripper」や金沢明子の「イエローサブマリン音頭」、NMEが1986年にリリースした、当時の若手中堅ニューウェイブバンドで「Sgt. Peppers」13曲をカバーしたアルバム(「A Day In The Life」はThe Fallとか)など、あからさまに無茶しているものもあるにはあるのですが、割合としては圧倒的に少ないです。

何となく理由はわかるのです。元曲はとてつもなく広い層に知られ、かつカバーする方にとっても神のような存在。そんな元曲をぶっ壊したり弄り倒したりすることは非常に勇気のいることで、他の人たちの楽曲を取り上げるよりもハードルは相当に高くなるのだろうと。

で、先日タワレコに行って見つけたのが「Looking Through A Glass Onion」というコンピ盤。
「The Beatles' Psychedelic Songbook 1966-72」という副題通り、The Beatlesの活動中から解散直後、ほぼ同時期に活動していたアートロック・サイケ系のミュージシャンによるカバー集です。
Deep PurpleやYes、CamelやSpooky Toothといった知られた名前から、Ian GillanがDeep Purple加入以前に在籍していたEpisode Sixとか、更に本当に名前も聞いたことないバンドまで、CD3枚組68曲。

正直、これが滅茶苦茶面白いのです。
ハードロック化する前のDeep Purple「Help」やプログレ化する前のYes「Every Little Thing」あたりはアルバム収録曲でそこそこ有名ではあるのですが、そういう後にモンスターバンドになる人たちの黎明期の音源というだけでも面白いですし、その他有象無象による、そして業界のトップとはいえ同時期の現役ライバルだった、まだビビられる存在になる前のThe Beatlesの楽曲を割合好き勝手にアレンジしてやっています。

当のThe Beatlesの1st/2ndアルバムも14曲中6曲はカバーだったように、1960年代半ばくらいまではカバー曲は今よりもごく普通な存在で、アルバムと言ってもオリジナルのヒット曲以外はおよそカバーで埋める、なんてことも珍しくなかった時期。
このアルバムに収められた楽曲の中にも、そんな流れで作られたものも多いと思います。だからか、68曲は玉石混合、忙しかったのかロクにリアレンジもせずコピーしているだけのものもありますが、ある程度は選りすぐられたであろうこのコンピ盤、全体的には面白く、かつ資料的価値も高いのではないかと思います。

こんなコンピ盤を作るのは、やっぱりCherry Redレーベル。80年代のマイナーバンドのCD化からどこから持ってきたのかもわからない50-60年代の謎の音源のコンピ盤制作まで。
こんな時代だからこそ、こういう企画力と実行力、大事です。


ダバダバコーラスからハードロック的イントロ、そしてソフトロック的な歌へ。もう頭おかしいのだけど、まだジャンルが未分化だった頃の何でもあり感。

ブラスが死ぬほどかっこいい。多分こういうアプローチが後のブラスロックに繋がっていくのですね。

The Beatlesの先輩格のインストバンドによる名カバー。元曲にはまだなかったインド風味をぶち込んだ挙句にボ・ディドリー。これ最高だ。