sora tob sakanaラストライブ@日本青年館のこと

昨日、日本青年館ホールに行ってまいりました。
sora tob sakanaのラストライブ、例のエグい価格のヤツです。A席15,800円。当選しました。そして発券してみたら2A列。2階の最前列です。正味バンドやステージ演出まで観たい楽曲派糞親父にとってはS席以上のベストポジションです。ありがとうございます。

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正味入場はいろいろ大変。
身分証明→検温→チケットを自分でもぎって箱へ→入場、と進むのですが、まあこれが面白いくらい回らない。2階席の入場は16:30からだと言われていたのですが、ようやく呼ばれたのが16:45過ぎ。
それでもそこから随分マクったようで、開演10分押し程度で済んだのはえらい。頑張った。

座席は1席ずつ空けて1列目が1,3,5だとしたら2列目は2,4,6になる市松模様状態での着席。当然ですが、声をあげることはNGですし、席を立つこともアウト。
元々17時スタートで公演時間は約4時間という報は受けていたし、入場したら「アンコールはありません」のアナウンス。
いろいろとただごとではない空気の中で開演。

とはいえ、4時間言うてもアイドルグループの解散を含んだ重要なワンマンライブの場合、メンバーごとの非常に長いMCがあるのが常でして、さすがに途中で休憩も入るだろうから、そこまで全部込みで約4時間くらいかかる、ということだろうと思い込んでいたのですが、蓋を開けたらぜんぜんそんなことなかった。
MCは本当にあっさり、最後の方に少し時間をかけたと思ったら、活動を支えたスタッフさんへの謝辞のみで。休憩は15分あったけど、終演後時間を見たら21:40になりそうな時刻でしたので。

ライブ途中、シングルのカップリング曲まで拾っていく選曲でようやく気付く。「全曲やるんだ」と。
デビュー以来、sora tob sakana名義でリリースされた楽曲48曲と各オリジナルアルバムに収録されたプロローグ的インスト2曲の計50曲。4時間というのは全曲やったらそれだけかかるという、非常にシンプルな理由。

果たして、MC含めてまったく感傷的なところのない、ただ7人編成のバキバキの演奏にまったくもってバキバキじゃない歌とダンスで、むしろふんわりと乗っかり続けるいつも通りの3人をただただ拝み続けるわけです。
というか生演奏で初めて聴いた中でも演奏のバキバキ度高めの「Summer Plan」だったかの途中で、ふと我に返ったんです。そもそもこれってすごく不思議な状況じゃなかったか。

テクノ系にしろラウド系にしろ、オケの音が大きめの「楽曲重視」のアイドルグループにはだいたい一人は「でかい声を出す金髪」がいがちで、そういう子はそれで非常に愛おしい存在ではあるのですが、彼女たちはデビュー時点の位置付けの時点でそれらとは一線を画していて。
残響レーベル直系の変拍子上等の爆音ポストロックサウンドに、ジュブナイル感溢れる歌詞を乗せて無垢な少女達に歌わせる、というのが、デビュー直後に多少の修正が入ったとはいえ初期からのコンセプトだったことは、デビュー後しばらくは公式サイトに「平均年齢13.8歳」とかコンマ以下まで刻んで表記していたことからもわかるわけですが、そもそもその組み合わせ自体、冷静に考えれば本当はすごくシュールなものであったなあ、と。
それでも6年間基本線ブレずに来た間に何となく、この稀有で奇妙な表現を「当たり前」として捉えてしまっていたのだと、思ったのです。

自分が初めて彼女たちを観たのは2015年10月のo-nestでのイベント。そこから5年、当初は正直とても奇妙なものを見たという気持ちになったものの、それ以降面白半分で観ていた自分を魅了し、そんなコンセプトを我が物にしてそれを当たり前と思わせてしまうほどに彼女たちは成長しました。
解散の理由はいろいろ現実的なこともあるのでしょうけれど、そういうことにしておきます。彼女たち自身が成長した結果、そろそろジュブナイルから卒業する時期が来たのだと。

最終曲「Untie」が終了し、スモークが一面を覆う中消えるように去って行った彼女たち。それもこの6年を「物語」として捉えれば当然の演出だったのだろうと思います。
2階席からは、急いではけていく彼女たち、見えたけどな。

というわけで、楽曲派なのでこれを買います。最期までお金落とします。

Taylor SwiftとErasureとXの新譜のこと

最近聴いた音源のことをざっくり。

Taylor Swift / Folklore

彼女の音源は「とりあえず押さえておく」程度でしか聴いてなかったんだけど、このニューアルバムを聴いた時「こういうの好きなんだろ」と言われているような気がしました。
実際好きなのだからもう仕方がないのだけど、でも、これまでの顧客層以外のところを取りに行こうとした戦略的な結果としてのこれだとしたらすごい。でもそういう意志が全面にあるとしたら実際こういう音にはならんはずなので、本当はこれどういうつもりなのでしょうか。
凄まじく地味だけど、でもだからこそ彼女の歌い手としての「華」はとてもわかりやすいアルバムではあります。


Erasure / The Neon

2017年の前作は微妙に曲がメロウ気味に寄っていたり、2014年の前々作はいつもよりリズムに気を遣った曲が多かったり、多少の振れ幅は感じられるものでした。そして今作。戻った。何にも振れてない。まごうことなきErasure。1980年代から知っているあの通りのErasureです。
当時からどんだけ技術が変わり、機材が変わったかということを考えると、そして当然人ですからいろいろ考えもするでしょう。この30年以上にわたって「全然変わらない」ことを維持することがどれだけ奇跡的なことなのか、ということなんですよ。歴史をどれだけ重ねても何の重みも蓄積も感じさせない、相変わらずの「ただのポップス」。だからこそ凄い。


X / Alphabet Land

X JAPANが海外進出するにあたって「JAPAN」を付けなくてはいけなくなった原因になったバンドというか、そもそもある程度インディーズ聴いている人間であれば当時からそこそこ知られたバンドだったので、YOSHIKIは仕方がない。
で、これ27年ぶりのアルバム、かつオリジナルメンバーによるアルバムとしては35年ぶりという、もうどうしていいのかわからないレベルのタイムライン。

1980年代から、50-60年代の古い「ロックンロール」を下敷きにしつつも、少なくとも音源からは何か微妙な「ほの暗さ」が漏れ出てくる不思議なバンドでしたが、これだけ時間がたっても全く変わっていない。
そして今作は最新作にして、過去のどの作品よりもわかりやすく「50-60年代の古い「ロックンロール」を下敷きにし」ていることがわかるというか、意図的にそうしている。でもやっぱり彼らのフィルターを通すと彼らでしかないから、やっぱりバンドって面白い。

あと、男女ツインヴォーカルのバンドの話をした時にこのバンドをすっかり忘れていたことに気付きました。

レコード屋が移転すること

大都市には所謂「レコード屋地帯」というのがあります。

名古屋は過去から今に至るまで大須2-3丁目か栄3丁目あたりの界隈がまさにそれですが、ここ数年で新栄町や池下にも新しい店舗ができたり、栄にあったStiff Slackが名鉄瀬戸線清水駅近くの高架下のライブスペースを併設した店舗に移転したり、名古屋全体としては中心軸が少し東にずれた感はあります。

大阪は西心斎橋1丁目が圧倒的に中心でしたが少しずつ店が減っていき、逆に四ツ橋筋を挟んで西、堀江のあたりは店舗が少しずつ増えていき、西に中心軸がずれつつあります。昨年12月、心斎橋の老舗TIME BOMBが南堀江に移転したことが非常に象徴的でした。
でも徒歩で行き来できる範囲ではありますし、「徒歩で1時間で何軒のレコ屋を回れるか」のレースを開催した場合は東京以上にここらあたりが日本で一番有利なはずです。

東京の「レコード屋地帯」は、新宿区西新宿7丁目の小滝橋通り界隈と渋谷区宇田川町の通称「シスコ坂」界隈が代表的ですが、ここらへんは新宿レコードが下北沢に移転したり、渋谷のレコファンも閉店を決定したりと、双方全盛期に比べると相当に厳しい状況です。
先日、アーバンライフメトロに書かせていただいたように、今、東京で一番熱い「レコード屋地帯」は下北沢というのが最近の傾向。

ただ、何か東京もここんとこレコ屋移転のニュースがいくつか入ってきています。
まず吉祥寺。

ディスクユニオン吉祥寺、10/2に吉祥寺PARCOに移転オープン

吉祥寺も全席期に比べるとレコード屋の数は減りました。そんな中ユニオンが長年居を構えていた元町通り沿いの2階から移転してパルコのB1階へ。
「パルコのB1階」と言えば、昨年11月に復活オープンした渋谷パルコのB1階に入ったユニオンレコード渋谷店。その縁でしょうか、こういうことになっております。
そしてその渋谷パルコのB1階には更にこの20日、センター街からダンス系専門のレコード店Techniqueが移転してオープンいたしました。

テクニークが渋谷PARCOに1年間限定で移転

1年限定というのは何でだろうと思ったのですが、これパルコによる救済策ではないかとも思いまして。
渋谷パルコが復活した時に一緒にWAVEも復活するよ、という話も聞いて随分テンション上がったのですが、蓋を開けてみたら駅の売店のような極小店でがっかりしまして。

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でもパルコの店内を歩いてみると、BGMがそのWAVEに置いてあった電子音楽のレコードの曲だったりとか、要するにあのWAVEはそこ単体で売り上げを最大化するというのではなく、このパルコのコンセプトを象徴した場所なのだということで、何となく理解したのですが。

で、こういう最近の状況下で店舗の売上も低下して、奥の方の2階とはいえ渋谷センター街の立地でしんどい状況になっていたTechniqueに対して、音楽コンセプト的にも遠くはないパルコが手を差し伸べたのではないかと。

上記、完全に「そんな話だったらいいな」という私の想像です。
殺伐とした渋谷の街にもそんなあたたかい話があると、素敵じゃないですか。

何で日本以外ではCD売れなくなったのか考えたこと(続き)

前回、米津玄師のニューアルバムのCD売上がミリオン入ったこときっかけでこういうことを書いたのですが、やっぱ続きを考えるわけですよ。

2年ほど前に書いた記事。
アメリカと日本の閉店のこと

現在、アメリカ国内にあるCD販売ショップチェーンはFYEのみ。それもアパレルやら雑貨やらとの兼売。そして2年前は250弱と書いていますが、今数えたら200切っていましたので、まあそういうことで。
全米を網羅する家電量販店チェーンBest Buyは2018年にCD販売から撤収しましたが、WalmartとTargetあたりの巨大ショッピングセンターはまだ売っています。
ただ、ここらへんは最初からきめ細やかな品揃えとかはしていなくて、売れ線の数百タイトルをすごい勢いで並べるだけですので、現状で大規模チェーンのCD販売が素晴らしく機能しているとは思えません。

UKにはまだHMVが健在ですが、2年前に経営破綻してカナダ最大の小売チェーンSunrise Recordsが買収した際に、ロンドンはOxford St.の旗艦店を含む27店舗を閉鎖して、現在国内100弱の店舗網となっています。

ということで、たとえばWalmartのCD販売ページはこんな感じ。
日本や韓国と同様に特殊パッケージを限定販売する手法を世界中で行っているBTSの他は、往年のスターバンドのベスト盤かアナログ盤ばかりが目につきます。

一方ミュージシャン側にも、特にヒップホップ系の若手はアプリのGarageBandで全部音を作って、リリック乗せて完成、それをSNSに流して注目されて一気に若手注目株になって、それからエージェントに所属してツアーを組んで、という流れで売れる人が非常に多くなっています。
そこにはもう物理的な流通というものは一切存在しておらず、当然CDショップが介在する余地などありません。
そりゃWalmartが売るのもそういう感じのブツになるよな、とも思います。

あと、こういう記事。
全世界の音楽産業が、5年連続プラス成長。200億ドルを久々突破、日本市場の成長は?

新興国の伸びがすごいということなんですけど、これ要するにストリーミングサービスが「オフィシャルで、かつ安価に音楽に触れる手段」として受け入れられたから、ということが推測されます。
ストリーミングの登場によって「初めてお金を出してオフィシャルな音源に触れる」ことになったという人が、恐らく日本よりも多かったということです。

日本もすごい勢いでストリーミングに流れてはいるものの、売上としては相変わらず減少しています。でもこれは「非公式に聴いていた人」の相対的な少なさもありますが、「再販制」の存在がとてつもなく大きいです。

世界中CDは自由に価格が付けられていた商品で、アメリカで言えばアルバムCDを戦略的に10ドルを切る価格で販売されていたりもしたもの。しかし日本だけはCD価格が再販制によって高いところで固定された価格で販売されていました。それが一気に数年で世界レベルと同一レベルのサブスクリプションの価格に一気に移行してしまったのですから、以前を上回りようがありません。

もちろんBAD HOP等の台頭など大きな動きはありますが、日本では海外ほどヒップホップが大きなうねりになってはいません。
また、諭吉佳作/menのようにGarageBandを駆使するミュージシャンも登場してはいますが、こちらもそれで爆発的に売れるというような事象は今のところ起きてはいません。
これは単に日本人の性格や嗜好性によるものなのか、レーベルと音楽出版社たるテレビ局との関係性もあって、既存メディアからの盛んな発信がなされた結果、「既存の音楽」的なものがまだ受けがちなのか。

とりあえず、日本と欧米にはCDが売れるとかヒップホップが流行るとか結果の差異以外にもいろんな差異があって、どこかには「意図」もあって、総合的な理由でもってこういうことになってるんだよね、という箸にも棒にもかからないまとめしか今はできない。
というか、業界の中から眺めればもう少し見通しも変わってくるのかと思いながら、でも外から適当に想像して面白がっている方がきっと楽しい。

何で日本以外ではCD売れなくなったのか考えたこと

米津玄師の「STRAY SHEEP」がアホみたいに売れています。
このアルバムのリリースと同時にこの最新アルバムや「ハチ」名義の頃の音源もストリーミングサービスに解禁されているのですが、それでも売れるCD。ミリオンは確実ということで。
デイリーの売上を見ていくと、約2週間たってもさして売り上げが下がらないまま推移しているのがわかります。

8/04(火):375,300
8/05(水):142,800
8/06(木):137,200
8/07(金):75,300
8/08(土):70,600
8/09(日):75,600
8/10(月):42,600
8/11(火):34,500
8/12(水):38,500
8/13(木):27,100
8/14(金):30,200
8/15(土):35,000
8/16(日):43,600
8/17(月):23,400

別の例だと一回り売上枚数は劣りますが、Official髭男dismの「Traveller」、ストリーミングでも聴けるし、CDもリリースから10か月以上たっているのですが、売上40万枚を越えていまだCDアルバムチャートの20位以下に落ちることなく順位をキープしています。今週14位。
これってどういう動きなのかと考えていまして。

サブスクのストリーミングの音楽配信サービスって、自分のようにあっちゃこっちゃ適当に聴く人間としては非常に有用なサービスなんですが、たとえばあるミュージシャンの大ファンだけど他の人の音楽はさして聴かんよ、という人の場合、月に980円×12か月って高いと思うのです。
たとえば米津玄師の大ファンが、この1年間でリリースした音源を購入した場合、リリースされたフィジカルはシングル「馬と鹿」とアルバム「STRAY SHEEP」、あと先行でダウンロード販売された1曲を加えても、それだけ。すごく熱心なファンでシングル、アルバムの限定盤2種を両方購入していたとしても15,000円程度で、でも限定盤のDVDも見られるし、アートブックも手に入るわけです。
どう考えてもストリーミングに入るより、CDの方がお得です。
CD購入者の結構な割合がそういうタイプの人であり、というか「音楽を聴く」人のそれなりの割合がそういう、誰かの熱心なファンとしてその音楽を聴くというタイプの人だと思います。

ヒゲダンや今回の米津玄師のCD売上の動きも、様々なメディア露出やプロモーションの結果、これまでライトユーザーであった層を「ファン」として取り込むことに成功したと考えるのが妥当と思いますし、、そういうファンが「CDの売上」を支え続けていると捉えるのが普通です。

だとするとだ。
そういう「ファン」の動きは日本に限らず洋の東西問わずあると思うのですが、じゃあ何で日本以外のだいたいの国でCDの売上があそこまで先細っているのか。という疑問が。
「なぜ日本だけがCD売れ続けているのか」ではなく、「なぜ日本以外の国でそこまでCD売れなくなっちゃったのか」の方が、日本人という立場ではむしろ疑問の方向としてはふさわしいのではないかと思ったのです。

欧米では既にCDはリリースなし、フィジカルはアナログだけというパターンも増え、アナログ盤が日本にとってのファンアイテム=初回限定盤的な位置付けにもなっていますし、ミュージシャンによってはCDを出すのは初回限定盤だけ、それも凝った仕様のためすげえ高価だけど通常盤CDはなしという事例もあったりするのですが、正直自分としては何でCD出さないんだろうという気持ちも。
だって過去からずっとCD買っているミュージシャンならそのまま新譜もCD棚に並べたいじゃん。
どうやら少しだけCDもリリースされているみたいなんだけど、もうタワレコにも入荷されなかったりとか。

てめえの頭で考えた限りでその答えの候補を挙げてみると。

  • 現在の欧米では2007年にMaddonaがワーナーとの契約終了後組んだのがLive Nationであったという点に象徴されるように、既に興行中心のビジネスが主流になっていて、レーベル側の利益最大化を考慮する必要がない
  • Chance The Rapperのようなレーベル契約を伴わないままスターになる存在が現われ、熱心なファンであってもフィジカルの購入を行うことのないタイプのミュージシャンが増加している。
  • Lil系のヒップホップ勢など、YoutTubeやSNSを主戦場にするミュージシャンが増加し、そもそもそのその活動の多くをネット上に収斂させている事例も増えている。

要するに、「レーベルの力が相対的に弱くなったから」というあたりに収斂されてしまいますが、果たして本当にそれだけでしょうか。
確かに日本はまだ全然海外と比較して「レーベルが強い」というのは間違いないですし、若いミュージシャンの多くもメジャーとの契約を夢見て活動しているような節もあるわけですが。
でも本当にそれだけか。

たとえば「レンタルCD」という業態が存在するのは日本だけなのですが、それによって確かにCDの売上は減ったかもしれませんが、でもユーザーにとって「CDへの親和性」はむしろ上がっているのではないかとか、大都市圏の「鉄道中心文化」、つまり拠点となる都市に存在する店舗へのアクセス性にも要因があるのではないかとか、いろいろ考えるのですが、でも結論なんぞ出ねえわ。

でも何となく心のここらへんに、そういう疑問は置いておきます。
もしかしたらすごい気付きが今後あるかもしれない。決して誰も得しない、俺がちょっと嬉しいだけの気付きですが。

GEOがいよいよ大変になってきたこと

先日もGEOが何かおかしいということを申し上げたのですが、この8月はやっぱり異常です。
TSUTAYAはずっと何らかの意図があって集中的に閉店しているような素振りもあるのですが、GEOはここまでずっと月に2-3店舗程度閉店し、でも下手したらその数以上に「総合リサイクル」業態に舵を切った「セカンドストリート」をオープンさせていたりしたのですが、この8/16、23、30のGEOの閉店数が過去に見たことがないペースになっていて。

8/16:GEO 大子町店(茨城県)
8/16:GEO 習志野台店(千葉県)
8/16:GEO 流山店(千葉県)
8/16:GEO 鴨川横渚店(千葉県)

8/23:GEO 太田店(群馬県)
8/23:GEO 北赤羽駅前店(東京都)
8/23:GEO 下石神井店(東京都)
8/23:GEO 福岡日佐店(福岡県)

8/30:GEO 鯵ヶ沢店(青森県)
8/30:GEO 豊田東山店(愛知県)

いや、おかしいのよ。これまでのGEOではありえない、同時多発的閉店が起きているのです。
もちろん2020年は通常ではありえない年ではありますので、これ一番状況的に酷い時を踏まえたうえで損得勘定した結果、ということなんだとは思うのですが。

そして、今のGEOの店内に入って思うのは、これ相当ヤバいぞということ。
これまで「GEO」業態を「セカンドストリート」業態に変更しつつこれからの生き残りを模索していたわけですが、もう業態変更を待っていられない状況が生じています。
つまり、「GEO」業態のまま「家電買い取ります!」とかの「総合リサイクル」的な方針を打ち出している店が増加しているということ。
そしてレンタルとか物販のスペースを削って家電を陳列している。

で、これどういうことかというと、「GEO」や「セカンドストリート」とBOOKOFFの「BOOKOFF SUPER BAZAAR」の業態がほぼイコールになったということ。もっと言えば「HARDOFF」とか各地方の「お宝倉庫」的な店とのも競合。これまでは住み分けができていましたが、本やCD/DVDが厳しくなった今となっては、衣服とか家電とか諸々の、今後もなくなりそうにないものに突っ込んでいくしかないですから。
「GEO」とか「BOOKOFF」とかのブランドがそういうところにどれくらい効くのかはわかりませんが、とりあえず殴り合い的な状況になっていることは間違いなく、でもそういうことであれば、徐々に「縄張り争い」的な、別の戦いが始まるわけです。
それはそれで大変ではありますが、それでも、本やCD/DVDあたりに限定された領域よりはマシ、ということで。

sora tob sakana「deep blue」のこと

sora tob sakanaのラストアルバム。買ったのはライブDVD付きの7,000円のヤツ
5月、sora tob sakanaの解散が発表された時、確かに驚きはしたのだけど、どこかで自分としては腑に落ちる部分があったのも事実で。

まず、メジャーに上がってからの曲の変化。
インディーズ期はいつも新譜が出るたびに「アイドルポップスの拡張」というフレーズが頭によぎるような実験というか冒険というか、聴いていて曲調と展開にワクワクするところがあったのですが、メジャー以降は「オサカナらしさ」を規定したうえで、その中でのバリエーションを探るような、言ってしまえばいい曲ではあっても驚きはあまりなくなっていて。
そしてデビュー以降通してあった「ジュブナイル」的な空気も曲によっては薄れている気がして。それはメジャーでタイアップ等の楽曲を制作するためには止むを得ないとは思うのですが、でもメジャーに上がって以降の楽曲には、それまでほどの思い入れを持てなくなっていたのも事実。

そして、玲ちゃんの脱退。
2018年くらいまでのライブを観たことがある方なら多分ご存じだと思います。彼女が一番「売れたい」「大きなステージに立ちたい」という野心を口にしていたこと。
他のメンバーが実にふんわりしているだけに、その言葉はとても強く聞こえて、彼女がこの先もグループ全体を鼓舞していくのだろうと思っていたのですが、実にあっけなく脱退。
脱退に至った事情を詮索する気はないですが、でもあの言葉は一体何だったのだろうと、今も思っています。

自分はそんな部分に、ちょっとした危機意識を感じていて。

もちろん、5月に解散発表、9月にラストライブというスピード感から察するに、コロナ禍の問題は大きいというか、ほぼそれが主因なのだろうとは思います。
数人のスタッフで回している地下ならともかく、メジャーに上がってしまえばレーベル側にもスタッフは付きますし、どうしてもチームは大きくなります。
そしてそのチームとしてのビジネスが成立しなくなったのであれば、そしてその立て直しの目処が立たないのであれば、早めに撤収するのが筋です。
書いててとても虚しいけれども、筋です。

ということでラストアルバム。
4人での楽曲を3人体制で歌いなおし9曲&新曲2曲という構成。でも歌いなおしだと思っていた曲もオケから全部録りなおし。リアレンジというほどではないのですが、明らかに音像がシャープになっていたり、音が足されていたりして、これなかなか面白い。
そして新曲。1曲目、最後だから好き放題なのか、「残響」らしさ満載の「信号」と、いろんな意味でスワンソングとして無闇に響く「untie」。
ここまで「ラストアルバム」として綺麗にパッケージングされたブツ、他になかなかありません。

あとはラストライブの抽選が当たるかどうか。あの馬鹿高いヤツですが、できれば現場で見届けたい。

昨日、フィロのスとの2マンライブをアーカイブで鑑賞したのですが、ポジションとしてはまるで真逆ではあるものの、我ら楽曲派クソ親父としては最高の組み合わせであり、その系譜が解散する年下からこれからメジャーデビューする年上に引き継がれたのをしかと見届けました。

今週末のタワーレコード新宿店のこと

土曜にタワーレコード新宿店に行ってみたんですけどね。

タワーレコード新宿店は4フロア構成。
7階は新譜や特集、アニメ系、ジャニーズ系、V系。
8階はJ-POP全般・K-POP・女性アイドル系。
9階は洋楽全般。
10階はアナログ専門「TOWER VINYL」。

で、8階のJ-POPのフロアはエスカレーターで上がると、これまでならいつも新譜を大々的に展開するコーナーになっていて、直近でリリースされた有名どころやタワレコが推している若手ミュージシャンの新譜を置いた什器がずらっと並んでいるのですが、土曜に見たらこんな感じでした。

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シティポップの名作のアナログで再リリースされたヤツと、それ関連の7インチや中古LPが並んでいて。
こういう感じでイベント的にシティポップス系中心にアナログ再リリースするのに乗っかったものなのですが、正直、見た時引きました。
「ああ、いよいよ終わりは近いぞ」という気持ち。
今週はOfficial髭男dismのEPがリリースされていて、先週出た米津玄師もある。もちろん7階では大きく展開されているのですが、8階がこれというのは何ていうか、店舗としてはもう新しいものよりもこっちの方がビジネスになってしまうのか、とも思ってしまうわけです。

一方、7階にはこんな什器。

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NiziUは現状で「プレ・デビュー」という状態で、配信のみで4曲が世に出ているのみで、本デビューはこの秋の予定。
現状レコード屋で売るものなんかないのに、こういうことをしている。秋の本デビューまでに少しでも乗っかっておきたいということなのかもしれませんが、これも今後の店舗の未来の厳しさを暗示しているような気がして、非常にモヤモヤするわけです。

正直、今後の店舗の向かう先が可視化されてしまったような、そんな今の新宿。

CD店チェーン「ミヤコ」がギリギリなこと

複合書店型を除くと、全国チェーンと呼べるCD店は、タワーレコード、HMV、新星堂、山野楽器。
玉光堂とバンダレコードは会社としては一体化したので、これも全国チェーンか。
また、卸業に近いところで営業し、主にショッピングモール内で撤収したCD店に居抜きで代替店舗として入居する形で店舗を増やしていったBIG、We'sというあたりも一応全国チェーンと言えないこともない。

それ以外にも地方のみのチェーンでまだ「チェーン」の形で複数店舗が生き残っているのは静岡県のイケヤ、京都本店で関西近郊に展開するJEUGIA、四国のDUKE SHOP、熊本県のムラヤマ・レコード、そして大阪を中心に関西に展開していたミヤコがあります。

そのミヤコですが、2020年に入る頃には3店舗体制、それが4月7日にアリオ鳳店が、本来5月までは営業する予定なのを緊急事態宣言を受けた形で閉店、そして先日、2020年10月にイオン大日店を閉店するとの発表がありました。つまりそれ以降残るはイオンモール伊丹昆陽店1店のみ、ということになります。

そのミヤコ、2002年までは大阪・心斎橋の心斎橋筋に本店を持ち、なんばウォーク、なんばCITYにもそれぞれ出店するなど、関西では相当にイケイケな感じのチェーンでした。
1980年代と思われる店舗一覧には以下の店舗名。

心斎橋本店
専門大店
千日前店
尼崎店
泉北店
宝塚店
千里南店
千里北店
堺店
京都店
東京店

という感じの並び。
また、直営店の他にも暖簾分けのような形で各地に「ミヤコ」の屋号のレコード屋が出店していきます。その「暖簾分け」タイプの店舗で今も残っているのは埼玉県蕨市のミヤコ、石川県七尾市のミヤコ音楽堂、兵庫県姫路市のミヤコ。

前述の一覧の「東京店」が暖簾分け店舗として営業し、2013年に閉店した銀座のミヤコとイコールかどうかはわかりません。

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それでも少なくとも企業として「全国チェーン」になる野望はあったものと思われますが、結局関西の地方チェーンとして生きる道を選びます。
1990年代以降、外資系が入ってきてすごい勢いで郊外ショッピングモール型の店舗を増やしていったこともその理由にはあるのだろうと思います。
ネットで拾える最古の店舗網は2000年。

心斎橋店
なんば店(なんばCITY)
なんばウォーク店
泉北店
尼崎店
千里中央店
北千里店
高の原店

以上8店舗体制。これ以降、かなり激しめの出店と撤退を繰り返します。

心斎橋店(心斎橋筋)(1943-2002)
高の原店(サンタウン高の原)(?-2005)
なんばCITY店(?-2008)
千里中央店(センチューパル)(?-2010)
なんばウォーク店(?-2011)
北千里店(北センター専門店街)⇒北千里サティ店(?-2013)
泉北店(泉ケ丘駅北)⇒パンジョ店(?-2017)
尼崎店(尼崎神田中通り5)(?-2017)
京都大丸店(2003-2017)
三宮店(ダイエー三宮駅前店)(2005-2011)
布施店(ロンモール布施)(2005-2012)
塚口店(ダイエー塚口店3号館)(2005-2016)
しんかなCITY店(2008-2008)
堺ヨーカドー店(2008-2011)
高槻店(ジャスコ高槻店 2008-2014)
アリオ鳳店(2010-2020)
イオンモール神戸北(2011-2016)
イオン大日店(2011-2020)
イオンモール和歌山店(2014-2017)
イオンモール伊丹昆陽店(2014-NOW)
ニトリモール枚方店(2016-2016)
モザイクボックス川西店(2016-2019)

何とか10店舗前後の店舗網をキープしていますが、2016年あたりに完全に息切れし、徐々に店舗網が縮小、そして今に至ります。
ということで、本家が残り1となったことで、むしろ暖簾分けの店の方が後まで生き残る可能性が出てまいりました。七尾市のミヤコ音楽堂なんか今やほぼ電機店ですし。

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これまでも地方のチェーンが消えるのを見てきました。一度広げた店舗網が最後また1店舗まで減って、そしてそれも閉店した北海道の国原や富山県のフクロヤ。
店舗網を広げて企業としても大きくなって、その分小回りが利かずに複数店舗持った状態で一気に逝った石川県のヤマチクや香川県のタマル。

もうこういう時代、どれだけパッケージ販売の店がいるかっつったら、正直ここ1年で猛烈にストリーミングに人が流れている感はありますし、今ですらお店の総数は過大ではないかという気もしなくはないのですが、おっさんはやっぱり寂しいです。

イヤホンズ「Theory of evolution」のこと

アニメはわかりません。
あんまり触らないようにしています。自分がオタク気質であることは十二分に理解していますが、理解しているが故に自制が働くのです。
自分はギャンブルや風俗、ネトゲやソシャゲには一切手を出さないと固く心に誓って生きています。手を出した時点で少ない蓄えを全部吐き出して人生が崩壊することがおよそ見えているからです。
同じ理由でポケモンGOやドラクエウォークもやりません。やり始めたら「俺はポケモンマスターになる!」と言いながら会社を辞めてしまう自分が容易に想像できます。駄目です。

そして、だからアイマスにもラブライブも触らないようにしていますし、実在のアイドルではライブにまでは行っても、接触イベントには一切参加しないのです。うっかり接触行って柏木由紀とか須田亜香里クラスのに出くわしたら、その時点で人生終わりになるのわかっていますから。

どれだけ魅力的には見えても、アニメには触らないように生きていますので、声優の歌というのは「声優アイドル」の域を超えて「こっち側」に来たものしかわかりません。
具体的にCD持っているのは水樹奈々・坂本真綾・花澤香菜くらい。歌唱力とか、楽曲のクオリティとかでアニオタ外にまで聞こえがめでたい方々です。

で、今回Twitterに流れてきたのは「イヤホンズの『記憶』がヤバい」という声。とりあえずYouTubeで聴くじゃないですか。で、実際に非常にヤバいわけです。
一人の主人公の女性の3章に分かれた過去のエピソード。そのエピソードごとのサンプリング音とそれぞれの声の表現。それが4分45秒あたりからそれらのすべてが重なってすさまじく多幸感に溢れた怒涛のエンディングにぶち込んでいく。
サウンドプロデュースは□□□(クチロロ)の三浦康嗣氏。ていうかこれ、□□□で得た経験値ほぼ全部ぶち込んでいませんか。

そして思ったのは「この曲を表現するにあたって『声優』であることの必然性」。
例えば演じるキャラクターのCVでの歌唱とかでは必然性ありますが、キャラクター抜きにして「声優」であることがここまで楽曲のコアになっている曲って他に知らないので、すごく感心したのですよ。

これ聴いてアルバムを買うことを心に決め、でも思ったほど近所のCD店には置いていなくて、新宿のタワレコに出向いて今日入手して聴いた。何だこれ。
M-1、インタビューのコラージュで構成された「記録」から「記憶」の流れは抜群。アルバムは全体の半分は過去曲のリメイクですが、もう半分はリメイクとは言えない何かおかしなことになっています。
「記憶」も、過去に三浦康嗣氏が彼女たちに提供した「あたしのなかのものがたり」のアップデート版ということですが、もう完全に別物。

そして「記憶」以上に心奪われたのはM-7「循環謳歌」。
これは新曲なのですが、初回限定盤のCD-2に収録された「忘却」と「再生」という2曲を合成された曲になっていて。
どこまで伝わるかわかりませんが、コーネリアスの「STAR FRUITS SURF RIDER」の8cmシングル2枚組同時再生とか、3776の「静岡」と「山梨」を同時再生して初めて完全な楽曲になる「公開実験」とか、海外で言えばThe Flaming Lipsの4枚同時再生で全容が初めてわかる「Zaireeka」とか、そういうのをここでやっているのですよ。
しかもものすごくシンプルな「歌物」でそれをやる。この曲、すごく心に来るので是非聴いてほしい。ただでさえ心に来る曲でこういうことをやる。素晴らしい。

すごく感動したのですが、でも彼女たちがどういう作品でどういう役の声を当てているのかは知りませんし、でも調べないことにします。
人生が崩壊するかもしれないからです。