映画「アザー・ミュージック」のこと

休みに映画でも観るかと思い、特急ゆかりとか、のんちゃんとかも考えたのですが、結局渋谷のシアター・イメージフォーラムに「アザー・ミュージック」を観に行くという選択。

我ながら地味な選択だと思いながら観たら、思った以上に地味でした。すごく地味でした。

ただそれでも、敢えてイーストヴィレッジのタワーレコードの向かいに店を出すにあたって「Other Music」という店名を付けたのも素敵だと思ったし、割とすごいメンツがちょっとずつ出てきて、ミュージシャンも含めて広く愛されていた店だということはすごく伝わってくる、何かいい映画でした。

閉店への物理的なプロセスは割と尺を取っていたのですが、「閉店を判断する」に至る心理的、環境的なプロセスについてはさして尺を取ってなかったのが不満と言えば不満か。

ただ普段からレコ屋のことをぼんやり考えている身にはまさに燃料みたいな題材であり、結果猛烈にいろいろ思うわけです。その「『閉店を判断する』に至るプロセス」について日本と比較して。

今やアナログ専門に近い中古店は、新規オープンの方が多いくらいになっていますけど、Other Musicのような、ジャンルもあまり問わず新譜も中古もないまぜにして、とにかく「今のお勧め」をレコメンドしていくタイプの店舗って、日本でもあんまり多くありません。

中古全般をメインにしつつ新譜も多少という店は割とありますが、現状で「まさにそういうタイプ」と言えそうなのは、自分が行ったことあってそう感じたのに限れば、下北沢と京都三条のJet Set、埼玉大宮のMore Records、大阪堀江のFlake Records、名古屋のStiff Slack。
それくらいじゃないかと思うんですよ。

で、そういうお店って考えてみると今の世の中かなりしんどいと思うのです。

そもそもミュージシャンが己の存在を世に問おうとする場合、過去であれば少なくともフィジカルな盤を何らかの形でリリースすることになりますし、物理的に存在していればどこかの店舗のアンテナに引っかかってレコメンドされることもありえるわけです。

が、現状で新しいミュージシャンが音源を録音したとして「じゃあ盤作るか」の前に恐らくBandcamp等のサービスにアップするでしょうし、そこで人気が出たとすると、インディーズを経由する前にメジャーから声がかかることもあるでしょうし、「もうフィジカルは出さなくていい」という判断のもと、配信とライブと物販で食っていくという判断もできるわけです。
過去と比べて選択肢が増えた結果、そういう店舗の役割の重要度も相対的に減少していきます。

また、日本のタワーレコード等かつては輸入盤を廉価に販売することを特長としていたチェーンの洋楽の品揃えが最近悪くなっている理由を以前にまとめましたが、米国の店舗の立場でも同様の状況はあり得ると思います。
非米国のミュージシャンがフィジカルをリリースしたとしても、取り寄せようにも国内流通ですら限定的でとてもまとまった数を輸入して店に並べることができない状況。

またこれは映画内でも触れられていましたが、向かいのタワーレコ―ドの閉店(2006年)も大きかったようです。
他店と差別化ができるのであればひとつの地域に複数店舗があることで「こっちにないならあっちに行こう」「ついでにあっちの店も見に行こう」という買い回りも盛んになりますし、実際Other Musicも道を挟んで向かいにあったタワーレコードに対してのオルタナティブな品揃えであったことがその大きな存在意義でもあったわけで。

タワーレコード撤収の理由は、ウォルマートやベストバイが売れ筋の超メジャー作品を廉価で売りまくったせいですが、その結果そういう量販店では絶対に扱わない作品しか置いていないOther Musicにも影響を与えたということです。

CD/レコード店の縮小は「配信、ストリーミングサービスの伸長によってフィジカルが売れなくなったから」が最大の理由であることは間違いないにしても、単純にそれだけには収斂しきれない、様々な変化の結果が今ということなのか、と。

私はニューヨークに行ったのは1993年きりですので、まだOther Musicはありませんでした。タワーレコードには行きました。
思ってたより小さくて割とガチャガチャした店だったという記憶。

だから正味、1995年に移転オープンした時から現在に至るまで、タワーレコード渋谷店は世界最大であり続けているのではないかと思うのです。
つうか2022年にあれ維持してるの、何かの間違いとしか思えない。