アダルト系女優の音楽活動のこと

おとといフライデーのアルバム、2016年からのシングルを集めたものではあるのですが、なかなか感慨深い。
制作に参加しているミュージシャンが、トリプルファイヤー、マキタスポーツ、柴田聡子、NATSUMEN、Enjoy Music Club、Have a Nice Day!、バクバクドキン、パソコン音楽クラブ。更に作詞にはマンガ家の大橋裕之と映画監督の今泉力哉。
滅茶苦茶なんですが、何となく筋が通っているようにも思えるこの人の並び。
普通に音楽として滅茶苦茶面白いので、お勧めです。

ここでふと、AV女優の音楽活動について考える。
たとえば非アダルトな歌手がその後アダルト映画に入ってきた事例としては五月みどりや畑中葉子。
逆にアダルト映画やAV出身で歌も歌い、その後非アダルトなタレント業に参入したのは美保純や可愛かずみ、飯島愛。
そこらへんのメジャーなところはわかるのですが、じゃあ最初って誰よ、というあたりが気になってきて。

ただそこらへん突っ込んでいくと「アダルトビデオに出演するAV女優」はまあ何とかわかるものの、こと映画に関しては何をもって「アダルト=成人映画」で何をもって「ポルノ女優」かを定義しないと先に進めなくなってしまって。

以下、数日調べた程度ですので抜けあると思いますし、そもそも「アダルト」「ポルノ」等の定義によって異なってくるものでもありますので、まあこんなもんか程度でよろしくお願いします。
一旦範囲としては「アダルト系女優さんがアダルト系映画/ビデオに出演している期間内に音源をリリースしている」事例に限ります。
1990年代のAV女優白石ひとみなんかはAV女優引退後、何故かノイズミュージック界隈でCDをリリースしていたりしますが、そういうのは抜き。


「成人映画」とは映倫でもって「18歳未満は鑑賞不可」と判断された映画ということで1954年頃からゾーニングが始められたそうなのですが、元々は普通に映画を作って審査の末にゾーニングされてしまう類のものでした。
それが1960年代後半から東映が「敢えて積極的に成人映画に指定される映画」を狙うようになって、そういう映画を「ポルノ映画」と称し始め、それを言ってみたらパクったのが「にっかつロマンポルノ」という流れのようです。

ですので「ポルノ映画」が始まるまでは、ヌードや濡れ場があってもそれを専門ではない女優さんがやっているので、じゃあどこに「普通の女優さん」との線を引くのかわからなくなったというかはっきりしなくなったので、とりあえず「東映のポルノ路線開始」を起点とします。

となると、東映が「ポルノ」を称し始めた際に「東映ポルノの看板スター」と紹介された池玲子が1971年にテイチクからアルバム「恍惚の世界」をリリースしたのが「初」となります。
それ以前、実質的にポルノ路線を始めたのは「二匹の牝犬」という作品だと言われていますので、それを込みにするとその主演で、今もゴリゴリで現役女優である緑魔子が1967年に東芝から出したシングル「女泣かせの雨」が創始ということに。

そんな感じでざっくり探った限りではこんな感じ。

  • 緑魔子(1967-1973・シングル6)
  • 池玲子(1971-1973・アルバム1シングル2)
  • 田中真理(1973・シングル1)
  • 小川節子(1973・シングル1)
  • 潤ますみ(1974-1975・シングル2)
  • 白川和子(1975・シングル1)
  • 伊佐山ひろ子(1977・シングル1)
  • 原悦子(1980-1981・アルバム1シングル2)
  • 寺島まゆみ(1981-1984・アルバム4シングル7)
  • 愛染恭子(1984・シングル1)

で、おとといフライデーのような、グループ/ユニット形態の最初を探ってみたところ、青木琴美、井上麻衣、小田かおるという、当時では割と有名どころの女優さんが「ピンクキャンディーズ」という大変に雑なグループ名で1985年にシングルをリリースしたのが最初っぽいのですが、ただその前にユニット名がないヤツがありました。

1975年に「ロマン・ポルノ エロスの甘い囁き おんな不貞寝の子守唄」という、当時のロマンポルノ界のスター総出の企画アルバムがリリースされたのですが、そこに収録されているのが「複数の女優による楽曲」の最初ではないかと思われます。

にっかつが1986年に出演女優を束ねた「ロマン子クラブ」というグループを結成していますが、これは映画のみでレコードのリリースはありませんでした。
会員番号1番に「そっくりさん」女優の新田恵美を据えてみたり、なかなかアグレッシブではあったのですが。


一方アダルトビデオ。
こちらは少なくとも、女優さんをレコードリリースまで持っていけるのは概ね専業の会社のみということで考えられますので、割と始まりははっきりしています。
ただ、特にビデオ初期の1980年代は、「ポルノ映画」「アダルトビデオ」双方に出演されている女優さんも割と多くいますので、ここでは「ビデオでデビュー」というところで線を引きます。

となると、1980年代半ば、ある程度ビデオデッキが普及してレンタルビデオもチェーン展開を開始したことで「人気女優」が現れて、そんな女優さんがレコードもリリースするようになります。
探った限りの最初は、1984年にビクターからアルバム「ひとり寝のララバイ」をリリースした八神康子。
それ以降ざっくりこんな感じ。

  • 八神康子(1984・アルバム1)
  • 早見瞳(1986・シングル1)
  • 葉山レイコ(1986-1994・シングル6)
  • 早川愛美(1987・シングル1)
  • 秋元ともみ(1987・アルバム1シングル2)
  • 小林ひとみ(1987・シングル1)
  • 前原祐子(1988・シングル1)
  • かわいさとみ(1988-1989・アルバム2・シングル3)

グループ/ユニット型としては1986年、森田水絵・杉原光輪子・山口美和の3人の名前からユニット名を名付けた美光水LAKESが、センチュリーからシングル「Sunset Highway」をリリースしたのが最初っぽいです(翌1987年には杉原光輪子・森田水絵の2人組のLAKESとしてリリースあり)。

  • 美光水LAKES⇒LAKES(1986-1987・シングル2)
  • RaCCo組(1988-1989・ミニアルバム1シングル2)

今と比較すると、まだこの時期はグループとしてのデビューは少なめ。
「ギルガメッシュないと」のように、普通にテレビタレントとしてバラエティ番組に出演するようになったことと何か関係あるのでしょうか。
その「ギルガメッシュないと」では、番組内でのユニット結成はありましたが、CDデビューに至ったグループは、グラビアアイドルによるグループだけだったようです。

なので、AV女優と音楽活動が圧倒的に「近く」なったきっかけはやはり「恵比寿マスカッツ」ということで。
メンバーが流動的でしたので、他とは比較しにくいのですが、非アダルト業界でのアイドルの動きとこちらも連動していると考えていいでしょう。
1990年代にデビューした人が少なめなのは、やはり非アダルト業界でも「アイドル」の衰退期だったからと考えると、割と合点がいきます。

今もアイドル活動をしているAV女優はいるというか、去年末には「Mi LUNA」というグループがデビューしていたり、この流れはずっと続いていくのだと思いますが、AV女優はそれとしての活動期間が長くないことが多いので、2人組でメンバーチェンジなしで双方引退することなく10年間も活動を継続したおとといフライデーは、史上唯一無二のモンスターグループと言えるでしょう。
いや、結局それが言いたかったの。