ディスクユニオンのこと

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前回、CD店の減りっぷりをネタにしたところ、複数名の方から「ディスクユニオンはメジャーじゃないということでしょうか」という話をいただきまして。
直接質問された方にはお答えしたのですが、そもそも輸入盤屋・中古盤屋として過去から現在に至るまで継続してアナログ盤をメイン商材として扱ってきたチェーンを、CDが一般化して以降およそCDの取り扱いを完全にメインにしてきたその他の店舗群と並べて比較するのは違うんじゃないか、という判断です。

ただ、確かにディスクユニオンが現在、過去以上にプレゼンスを増し、昨今他チェーンとは全く異なる異様な変化を遂げていることは事実でありまして。

ディスクユニオンは元々昭和16年に外国車の輸入業者として立ち上がった「ユニオン商会」が発祥。
この時期によくもそんな業態を始めたもんだとも何となく思いますが、戦後自動車のみならず様々な機器類を輸入するようになり、中でもオーディオ機器の輸入に定評があったようで、そしてオーディオ機器というハードを扱うのと一緒に輸入レコードというソフトも扱うようになったということです。

その時期はまだ輸入レコードもお高いわけで、「輸入レコードを扱う」ということはイコール「中古盤の買取と販売」も行うのも道理、その後完全にオーディオ機器&レコードの取り扱いに特化し、「ディスクユニオン」「オーディオユニオン」の両頭体制になったのが昭和44年、1969年だそうです。
要するに会社の設立から現在に至るまで、国内新譜をメインに取り扱ったことがないという割と独特な立ち位置。

異様なレベルで専門店化されたジャンル特化型店舗と、状況に応じて素早く店舗を移転・スクラップ&ビルドするフットワークの異様な軽さがユニオンの特徴と言えます。
ここ最近は何かいろいろうまくいっているように見えますが、過去にはコンピュータ関連専門店「PIW」とか、2000年前後にV系バンドではない方のヴィジュアル製品専門店「ヴァーズ」といった別名義の店舗を立ち上げたものの、現在の「沿革」では無かったことにしているのもそのフットワークの軽さ故、だと思います。

新宿・渋谷・お茶の水の都市域での多ジャンル展開と同時に、1986年には淵野辺店をオープンさせるなど、ロードサイド型の店舗についても模索していたものの、2010年頃に淵野辺店・稲田堤店のロードサイド型店舗を相次いで閉じ、都市型店舗に特化すると共にジャンル別フロアを強化、アナログ人気の兆候をいち早く捉えてロック系アナログ専門フロアを2015年にオープン。
同じく2015年には初めて首都圏以外、大阪に店舗をオープンし、翌年にはクラシックを別店舗化。そしてこの10月には名古屋上陸。

ジャンル別化によって品揃えや店頭対応で各ジャンルのファンやマニアに深くコミットできる体制を作り、21世紀初頭の段階で、細々とアナログを作っていたミュージシャンをバックアップしたり、CDでも海外ミュージシャンの希少なボックスセットを国内販売用に確保したりしておっさんコレクターの信頼を勝ち取ったり、完全に他チェーンが真似できないレベルの「深度」を得たうえで、そこに来たアナログの流行によって今度は「面」を拡大していくわけです。

他地域で多店舗展開している中古レコード店チェーンを考えても、対抗できるところがありません。
大阪はDisc J.J.でしょうか。大阪駅前ビルの地下や日本橋に数店舗ずつ、天六にもかつて店舗がありましたが、徐々に減らして現在残っている店舗は日本橋の1店舗のみで、もう「チェーン」とは言えない状態。
かつてDisc J.J.の梅田本店が入居していたACT IIIで、現在ディスクユニオン大阪店が営業しているという皮肉。

名古屋はバナナレコード。堅調に営業しているようには見えますが、バナナはかつて首都圏に攻勢をかけ、渋谷・吉祥寺・横浜に計4店舗を構えたものの、2014年までに全店撤退しています。
今度は首都圏からの攻勢を受ける番。名古屋・栄の大通り沿いからは先日撤退しましたが、そこは「旗艦」的な役割を大須に集中して今後に備えるものであると理解したい。

他地域を考えても、広島を中心としたGroovin'、福岡のボーダーラインあたりが頑張っていますが、どちらも一時期店舗網を縮小し、現在も停滞している感じです。現在のアナログ流行りによってある程度体質は改善しているかもしれませんが、今のところ新店舗を出すような様子は見えません。

首都圏の他を考えても、かつては殴り合いをしていた様子のあったレコファンも、現状では秋葉原と小金井の店舗のみとなり、正味シオシオな感じ。
今考えてみれば、レコファンとディスクユニオンの方針はずいぶん違いました。とにかく大量にあって安いけど掘るのがやたらしんどいレコファンと、それなりの価格だしフロアも狭くて動きにくいけど欲しいと思っているものには割とリーチしやすいユニオン。
そういう差や、先述のおっさんを捕まえる等「深度」を得る策の結果として、ユニオンが伸ばしているというのはわかります。

私が主に赴くのは新宿エリアですが、新宿通りの裏のあたりの一帯は、20世紀にはヴァージンもタワーもあったのですが、現在はほぼ「ユニオン村」と化していまして、少なくともあそこの景色を見てしまうと、状況は盤石としか言えません。

新宿駅東口からユニオンに向かう途中のビルの3階に、レア盤は揃っているけどやたらと高かった記憶のあるABCという店もありました。今ああいう店があったらそれはそれで面白いと思うのですが、無理だな。