Pet Shop Boys「Hotspot」のこと

Pet Shop Boysくらい働き者のユニットもいないと思います。デビュー36年目にして14枚目のアルバム。海外の大御所としては相当なペース。オリジナル・アルバムの間が4年空いたことがない。
そして、各アルバムで様々なチャレンジはしつつも、デビュー時にニール・テナントが言っていた「ポップで、でもちょっと考えさせる音楽」という線は36年間一切ブレていない。
昨年の来日公演も本当に素晴らしくて、もう大好きなんですけど。

新作、PLAYボタン押していきなりものすごいアナログシンセ音出てきて笑ったのですが、このアルバムはベルリンのハンザ・スタジオ録音ということで、スタジオ内のビンテージ級の機材を使い倒した模様。
ざっくり聴いていると、全体的に「集大成」感がすごくしました。
そのアナログシンセで始まるM-1「Will-o-the-wisp」も歌メロ始まってみたら非常に80年代の彼らっぽい音になるし、M-3「Happy People」はものすごく90年代的なリズムとババンバ・ピアノで押してくるコテコテのハウスがベースだし、M-5「Hoping For A Miracle」なんか1990年の「Behavior」に収録されていたとしても違和感ない。
バーナード・バトラーによるアコースティック・ギターで引っ張るM-9「Burning The Heather」のような新機軸はあるものの、最新の音楽情勢をキャッチアップしたような感じは今回のアルバムにはなく。

ただ、リードトラックとして公開されていた「Dreamland」は、彼らにしてはもうとてつもなくわかりやすく現在のBrexit状態のUKのことを題材にしているわけですし、「Hoping For A Miracle」もそんな感じで。
ぶっちゃけ彼らの英語は決して難しくはないんですが、その分単純に訳した意味で捉えてもいけなくて、で、国内盤買ってないから訳詞もわからず、いろいろ訳してみたのですが、特に「Burning The Heather」はこれ一文一文は簡単ですが、全体としての意味は自分のレベルではとても難解で、でも何となく今のEUのことではないかと思ったりして。

考えてみると、だからハンザ・スタジオでビンテージ楽器を使用した過去の集大成的な音にする必要があったのではないかと。
元々ヨーロッパを平和にするはずのEUという仕組みが、そのせいで諍いを起こしている、UKは特にそこから脱退するかどうかという、正直本来的な意味から考えると「退化」に向かおうとしている。
そういうところまで含めて生粋のUK人であるPet Shop Boysが、そういう表現をしているのだと。

たぶんUKでポピュラー・ミュージックをやってる人、人気商売ではありますので、なかなかはっきりしたことは言えないと思います。保守党か労働党かの二択とは比べものにならないくらい複雑な二択ですし、そもそもThe Blow Monkeysがサッチャー首相を「たかが雑貨屋の娘じゃないか」とDISった頃から、コンプライアンス的にも相当変わりました。

そういう世の中で、今言える、表現できることをして、こんなアルバムタイトルを付けているのだと考えると、やっぱり彼らはとてつもなく信頼できるのです。