オリコンチャートの「立ち位置」のこと

柴 那典さんがTwitterで紹介していたこの記事がやたらおもしろい。これは連載の一部で全体も滅茶苦茶興味深いのだけど。

アメリカ音楽の新しい地図 4.音楽メディアとランキング・システム

「ビルボード誌が一貫してレコード会社やミュージシャン側ではなく、リスナーあるいはそのカルチャーを受容するコミュニティーにもとづいてポピュラリティーを計測しようとしていた」。
それ故にブラックミュージックのチャートの存在の意味がねじれていく様の「なるほど」感。

そしてこの「もとづく」部分の差異がビルボードチャートと日本のオリコンチャートとの決定的な違いになっていると思いました。そしてその違いこそが、オリコンが配信・サブスクをチャートに反映する対応が遅かったひとつの理由になるのではないかと。

ビルボードが2005年からダウンロードを、2007年にはストリーミングもそのチャートを算出するための材料とし始めたのと比較するとオリコンチャートはとんでもなく遅く、ようやく昨年12月からダウンロード・サブスクでの聴取もカウントした「合算チャート」を開始しました。しかし一方従来のCD・レコードの売上のみのチャートも引き続き発表しています。
このアクションの遅さやCDチャートを廃止しないでいる姿勢についてはよくわからなかったのですが、今回ようやく「オリコンはそもそもレコード会社関係者や芸能事務所等に向けた業界誌である」という点にその根本があるのではないかと思うに至りました。

一般誌としてのオリコンは1979年に「オリコン全国ヒット速報」として創刊され、方針やタイトルを変えながら出版を続けたものの、2016年4月に終刊。一方業界誌としての「コンフィデンス」は1967年に「総合芸能市場調査」として創刊し、現在も発行を続けています。

レコードレーベルの人や音楽関係者向けに発信している以上、外圧に押される形で日本でのサービスが開始され、その収益率的にレーベルの本意ではなかったダウンロードやサブスクリプションのサービスに乗っかることは、オリコンの向いている方向がそっちだからこそ非常に難しく、ようやく日本発のサブスクリプションサービスも開始され、流れがどうやっても不可逆なことが誰の目にも明らかになったタイミングでやっとそっちに舵を切った。
それでも「連続記録」とか、いまだにサブスクに提供したくないミュージシャンの存在や、いろいろレーベルとの過去からの関係性もあって、合算チャートに一本化はせずにCDチャートも残している。そうしたい人は合算チャート見ないことにして「今作もオリコン1位!」って言えばいいわけですから。

言うてもネットの前からビルボードのHOT100はラジオプレイも込みだった一方、オリコンは円盤カセットの売上枚数に徹していたので、その頃から今の差異に近いものはあったわけで。
で、その徹した姿勢がPOSによる集計を発達させ、POSで得た販売履歴情報の解析によって卸から各販売店への提案等もしやすくなったという側面もあり、それがCDの全盛期の一翼を支えていたとも言えるので、一概に悪いことでもなく。

とはいえ、今こういう世の中でこういうチャートがどこまで有効なのか、というのも微妙になってきて。
たとえば去年のヒットで言えば、「一番CDが売れた曲」はAKB48で、「一番メディアで紹介された曲」はDA PUMPで、「一番聴かれた曲」は米津玄師で、それらを直接的に並べて序列を付ける意味はあんまりないと思います。

正味「音楽チャート」自体の行方がわからなくなってきていて、でも今週のチャートが発表されたらやっぱり見ちゃって何となくわかった気になって。それはもう自分が古い人間だからかもしれない。