Hi-STANDARDのシングルリリースについてのこと

Hi-STANDARD、16年ぶり新作「ANOTHER STARTING LINE」発売

いとうせいこうフェスのこと書こうと思ってたけど、今日はこの件が来たので。
配信なしはもちろん、通販もなしというところから「レコード屋に行くこと」「店頭での発見」みたいな点を重視しての今回の策であろうことは容易に想像がつくわけで、非常に彼ららしいなと思うと共に、でも、という思いもありまして。
彼らが音源を出していなかった16年の間に、「レコード屋に行きたくても行けない」人があまりにも増えた、という点において。

今回、自分で店頭で見つけるということを主眼にしているようで、各チェーン店のLINEで「本日の新譜」一覧が来ても全く載っていなかったり、店舗からの発信すら相当に制限しているようですが、それでもいち早く店に入った人のTwitter等SNSでは無闇にバズっておりまして。
その内容を見るに、タワー、HMV、新星堂、山野楽器、玉光堂、ユニオンあたりのチェーン店はほぼフラゲ日に各店舗行き渡っているようでしたが、TSUTAYAはあったりなかったり。恐らく直営には届いているがFC店舗の一部にはまだ届いていない、卸によっては情報の秘匿上扱いが遅れる、みたいなこともあるのではないかと。GEOもTSUTAYAとほぼ同様の様子。

それでも待てば近所に来るならまだいい方ではあります。
CD屋、チェーン店も含めて総数としては確実に減っている。TSUTAYAもGEOも拡大期を過ぎて、今は店舗の総数を減らしながら大型店への集約を進めたり、新譜CDの取り扱いをやめてその分の床面積をコミックレンタルに当てている店も多数。地方は東京以上に「町のレコード屋」は滅びつつあり、生きてはいても広く薄く置いたところでそこまで売れないが故に演歌に特化することでようよう命脈を繋ぎ止めているという店も多数。
結果、全くもって現実的に行ける範囲に買える場所がどこにもなく、それでもネットから続々と情報だけは届いてくる。そういう人たちはどうしたらいいのだろうかと。

9月の休みに北海道の北の方回ってたんですけど、名寄市にあるのは郊外のイオンに玉光堂と、TSUTAYAと品ぞろえの薄いGEOが1軒ずつのみ。稚内市にはチェーン店はなく、1軒そこそこのレコ屋があったのですがこの9月末閉店で在庫一掃セールの真っ最中、残るは時計店との兼業で新譜の層がとても薄いお店が2軒とGEOのみ。

でもこれでもこの規模の地方都市としてはマシな方で、例えばもう少し人が住んでいて、かつまだ鉄道が利用されている、つまり駅前が商業圏として機能しているはずの神奈川県でも、駅からの徒歩圏内にCD買える店があるの、TSUTAYAがある茅ヶ崎駅から西に向かうともう神奈川県内にはなくて静岡県にぶち込み、熱海の小さなGEOと三島駅前商店街の小さなボロボロのレコ屋を越え、それなりの規模と品ぞろえを求めると静岡市まで行く羽目になります。
専業の通常規模のCD販売店は、横浜を出ると東戸塚から茅ヶ崎までなく、辻堂の山野楽器から先は静岡のタワレコまでありません。実際日本のあちこちがそんな感じで。

自分にも「みんなもっとレコード屋に行こうよ」という気持ちはあります。実店舗がなくなってしまったらどうしようという焦燥もあります。だから、自分たちのできる範囲でとはいえ、ここまでしてこういう策を打つハイスタは本当に真剣に考えているのだと思うし、そういう姿勢は本当にかっこいいと思います。
でも、もう既に「行きたくても行けない」人が全国中あまりにも多数存在しているこの状況で、正味「何が最善なのだろうか」とも、改めて考えざるを得ないわけです。全体に対しての「最善」なんかもうどこにもない、という答えはおよそ出てはいるんですけど。


もうひとつ、このハイスタの行動は今後の他ミュージシャンの通常的なプロモーションに大きな影響を及ぼす可能性もあるのではないかと。
もちろんビッグネームの16年半ぶりの音源というすさまじいアドバンテージはあるものの、それでも通常通りに従来メディアを使ってのプロモーションをそれなりにお金かけて真面目に行った他の有名どころのCDが一体どの程度売り上げるのか。その差によっては今まで以上に従来メディアの効果に決定的な疑問符が付くことも予想されるわけで。
何ががこれで変わるというか、崩れるかもしれないという気が、何となくするのです。