第72回紅白歌合戦を見たこと

72回紅白歌合戦を見ました。
過去のどの回とも空気感が違っていたのですが、じゃあよかったのかどうかといえば非常にもにょもにょする感じの視聴感でした。

まず、会場が有楽町の東京国際フォーラムだったということで、この会場の使い方は大変によかったと思います。

館内マップでいくと、メイン会場はホールAだったのですが、山内惠介・三山ひろしは「ガラス棟G」の上の階、櫻坂46は「地上広場」、YOASOBIと星野源はガラス棟地下のホールE1/E2前の細長いロビー部分を使用しています。
あと、まふまふやドラクエのオーケストラについては「どこ」を明示していませんでしたが、ホールE1/E2の中だったりしたのかもしれません。

で、有楽町だけでなく渋谷のスタジオや京都・清水寺や東京湾のクルーズ船とか、割と過去最高にいろんな場所からの中継がありました。
これ演出というよりはNHKの立場として運営も「密を避ける」ことに迫られたためだと思うのですが、そこは結果として割とよかったと思います。

あとは前半最後の「マツケンサンバ」。ミュージックステーションでもやっていたしどう独自色出すんだろと思っていたのですが、劇団ひとりや様々なダンサー群を連れてきたことで、オリンピック/パラリンピックの開会式閉会式の際にちょいちょいTwitterで出ていた「マツケンサンバ」待望論を受けての「それが実現したら」のIFを完全に現実にしたものだったことがわかります。
これは素直にすばらしいと思いました。一番盛り上がるタイミングで後ろの巨大スクリーンに劇団ひとりがぬるく踊り続けているのをずっと映していた点を除けば。

ただ、他はいろいろツッコミも入れたくなる感じで。
前半の凄まじくバラエティの匂いをさせる構成と、後半のエヴァ企画以降の割と紅白の王道的な構成と、あそこまで前後半で演出を変えてくる意味は正直わからないし、敢えてスタッフが後ろで場面転換している最中にその前に司会が立って進行しているのはあれ、「密になってませんよ」というアリバイ作り以外には意味ないと思います。
細かいところでは、AwsomeCity Clubのセット、高層マンションのベランダを模してのしつらえなのだと思いますが、リアリティを追及しているっぽい割には、そんなところにアンテナはないし室外機も多分そういう位置には置かない。
正直他にもそこここに違和感のあるシーンはありました。

藤井風のサプライズについては、「きらり」の自宅演奏の際に右上に「LIVE」って表示されていなかった時点で気付くべきでしたが、結局今年の一番おいしいところを担ったのが彼であることは間違いなく。
私は随分面白かったのですが、ただ彼の現状の認知を考えると、ようやくデビュー2年で音楽を能動的に聴こうとしている層以外へのリーチはまだまだこれからで、ほとんどテレビにも出演していない彼にそういう役割を担ってもらわないといけない状況というのが今回の紅白の限界でもあったわけで。

プロデューサー曰く「交渉はしていましたが時間切れ」ということですが、「目玉」的な存在をそういうタイミングで交渉している時点でもういろいろ絶望的。
結局、わからない人には全くわからないままフィナーレを迎えざるを得なかった形。

とはいえ、もう老若男女誰もが知るミュージシャンはほぼいません。
実際私ももう櫻坂や日向坂のメンバーのメンバーの個体認知はほとんどできていないのですが、それでも普段バラエティ番組を見ている際に出演していたのを見ていて、記憶にある顔が映るとちょっと嬉しかったりしました。
そうやって坂道やジャニーズのグループのメンバーは必死になってバラエティ番組に出演しては普段から少しでも知ってもらおうと努力をされているわけですが、そういうことができるグループも一握りですし、頑張っても地上波テレビへの出演ですのでそれで得られる認知にも限界があります。

J-POP以降、ゴールデン帯の歌番組がほとんど死んでしまうくらい音楽的な嗜好の多様化が進み、そして更に嗜好や環境や年代によって主となるメディアすらまるで違ってきている今の世の中で、老若男女誰もが知るミュージシャンを作り上げることはもうほぼ不可能。
紅白歌合戦を紅白歌合戦として成立させていた環境が既に完全崩壊している中、あちこちに目配せしつつよくぞここまでそういう「体」でやってきたよと思うのですが、正直「体」としてもとうに限界というか、立っているのがやっという感じがします。
大泉洋はそういう状況下で「景気づけ」するにはうってつけの人選だとは思うのですが、それでも様々なジャンル・世代の楽曲に対して同じテンションで「ブラボー!ブラボー!」と叫んでいることにはもう違和感を感じざるを得ず。

何かいろいろ噂もありますし、実際NHK、「お年寄り」向けっぽい既存番組の終了は公表されましたし、今年の年末どうなるとしてもあまり驚きません。

とりあえず、今回の優勝は小池栄子でお願いします。