演歌のシングルのこと

前回、「現在フィジカルを売りたいのは男女アイドル、K-POP、演歌あたりだけ」と言いました。
アイドルは一部を除いては接触イベントを付加することでCDを売り上げ、残りの一部やK-POPは概ねCDを映像付きやカップリング違いで複数種用意し、熱心なファンが複数枚買うことで売り上げを伸ばしています。この両方の手を取るアイドルもいますね。

演歌の場合もだいたいアイドルと同じです。大手を除けば日本各地のCD店やショッピングモールを回ってはCD・カセットを手売りします。別に握手券は付いてないけど手売りの時に握手はしますから接触です。
キャンペーン情報を仕入れては各地付いて回ったりする「オタ」もいます。たとえば東京でキャンペーンやるとなったら赤羽の美声堂と東十条のダンと亀戸の天盛堂はだいたい回りますから、ガチじゃなくてもそれくらいなら通えるし。

そのドサ回りの場として健康ランドをマークして徐々に名を上げて今年紅白に出場するところまで成り上がったのが純烈だったりするわけですが、ではそんな、演歌の中でも紅白に出るレベルの大手はどのような感じかというと、アイドルを遥かに超えたエクストリームな「複数種」商法が行われています。
以下、今年紅白に出る演歌歌手で複数種リリースしている皆様の、今年リリースのシングル一覧。

■氷川きよし(日本コロムビア)
2018/01/30:勝負の花道【Aタイプ】(CD/MT)4位→180位
2018/01/30:勝負の花道【Bタイプ】(CD/MT)
2018/01/30:勝負の花道【Cタイプ】(CD/MT)
2018/08/21:勝負の花道【Dタイプ】(CD/MT)5位→151位
2018/08/21:勝負の花道【Eタイプ】(CD/MT)
2018/08/21:勝負の花道【Fタイプ】(CD/MT)
2018/11/27:勝負の花道【Gタイプ・Good Night盤】(CD/MT)6位→79位
2018/11/27:勝負の花道【Hタイプ・Holy Night盤】(CD/MT)
2018/11/27:勝負の花道【Iタイプ・I Wish盤】(CD/MT)

■純烈
2018/02/14:プロポーズ【Aタイプ】(CD)8位→34位
2018/02/14:プロポーズ【Bタイプ】(CD)
2018/05/23:プロポーズ【Cタイプ】(CD)11位→59位
2018/05/23:プロポーズ【Dタイプ】(CD)
2018/08/29:プロポーズ【感謝盤 〜紅〜】(CD)11位→70位
2018/08/29:プロポーズ【感謝盤 〜白〜】(CD)

■三山ひろし
2018/01/10:いごっそ魂【タイプA】(CD/MT)12位→139位
2018/01/10:いごっそ魂【タイプB】(CD/MT)
2018/06/06:いごっそ魂【タイプC】(CD/MT)45位→91位
2018/09/05:いごっそ魂【10周年記念盤】(CD/MT)19位→183位

■山内惠介
2018/03/28:さらせ冬の嵐【夢盤】(CD/MT)4位→37位
2018/03/28:さらせ冬の嵐【笑顔盤】(CD/MT)
2018/06/06:さらせ冬の嵐【涙盤】(CD)15位→37位
2018/06/06:さらせ冬の嵐【花盤】(CD)
2018/08/01:さらせ冬の嵐【元気盤】(CD)21位→97位
2018/08/01:さらせ冬の嵐【恋盤】(CD)

■丘みどり
2018/03/07:鳰の湖 / 伊那のふる里(CD)
2018/07/04:鳰の湖 / 伊那のふる里【DVD付き】(CD/DVD)
2018/07/04:鳰の湖 / 伊那のふる里【4曲入り感謝盤】(CD)

■水森かおり
2018/03/20:水に咲く花・支笏湖へ【タイプA】(CD/MT)
2018/03/20:水に咲く花・支笏湖へ【タイプB】(CD/MT)
2018/07/25:水に咲く花・支笏湖へ【タイプC】(CD/MT)
2018/07/25:水に咲く花・支笏湖へ【タイプD】(CD/MT)
2018/07/25:水に咲く花・支笏湖へ【タイプE】(CD/MT)

氷川きよしはひとつのシングルを、カップリング曲とジャケットデザインを変えながら3回のタイミングに分けて3種ずつ、全種CDとカセットで出していますので細かく言えば18種リリースということになります。
他の皆様もタイミングが2回とか、ひとつのタイミングで出すのが1枚か2枚かという相違はありますが、概ね方針としては同じです。

カップリング・ジャケット違いでも表題曲が同じであれば同じシングルとして扱うというルールは、私が知り得る限りでは少年隊のデビュー曲「仮面舞踏会」で初めて取られた戦法で、この時からひとつのシングルとして集計されています。恐らく事前にオリコン側に確認はあったことでしょう。

タイミングずらして出すのはそれどうなのと、初めてこの件を知ったとき私も少し思いましたが、よく考えてみたら、古今東西問わず昔レコードで出ていた楽曲が年を追ってCDで再発されても売上枚数は通算でカウントされていますから、こっちの方がむしろカップリング違い以上に筋が通っていると言えないこともない。
実際、タイミングをずらすことで、180位まで落ちたものが2度目のリリースでまた5位まで盛り返すわけですから、これはもうやめられない。やめられるわけがない。

買う方も、演歌歌手はおよそアルバムは重視せず、出てもシングル表題曲と過去のヒット曲とカバー曲という感じですし、「カップリング集」みたいなブツはほぼありませんから、したがってここを逃すと聴けないかもしれないこともあり得るわけで、そりゃ熱心なファンなら必死です。

そして氷川きよしはこれだけやって合計14万枚弱という売り上げ枚数。他の方も7万枚とか10万枚とかというあたり。若干寂しいですが、こういう形でリリースして、付いたガチファンから太くお金を出していただく形で支えられ、今日も彼らは歌うのです。

でも、演歌系の番組は激減したわけでもなく、配信にだばだば回ってしまうような世代でもなく、実際どの歌手も別にサブスクにガンガン曲出しているわけでもないのに、それでもこれだけ売り上げが減っているのは何故だろうと考えてみたのですが、単純な話として新規ファンの流入よりもファンをやめたり死んだり寝たきりになってる数の方が多いというのはあるにしても、それ以上に、市街のレコード屋が消え、ショッピングモールのCDショップも潰れていく今、購入するための接点がどんどん失われているという理由も相当あるのではないか、と何となく思いました。

ということで、今日は「氷川きよしが今もCDの売り上げを維持できているのは少年隊のおかげ」ということを覚えていただければ満足です。