「リリース日」とMVの公開のこと

YouTube Musicがサービスインした際に書いた文章があります。

YouTubeが始めた新しいサービスのこと

配信やストリーミングが主流化することで「アルバム」とか「カップリング曲」という概念がどんどん希薄化している中、ここに来て「リリース日」の概念が揺らいでいるという状況なわけですが。
YouTube Musicがリリースされた時、迷いを見せていたsumikaですが、今回は新作リリース日にMVも公開する形にしてきました。あそこで悩んだ結果としては非常に正しいと思われる方針になったわけですが、ここでふと「そもそも」の部分を考えてみる。

何でMVをリリース日より前に公開することが通例になっていたの?

80-90年代の欧米によくあった「アルバムに先駆けて先行シングルをリリースする」というパターンでのシングルの存在は、現在ではMVに置き換わっています。
アルバム型のミュージシャンの場合、リリース予定のアルバムから先行して収録曲のMVを公開し、アルバムのプロモーションとして機能させています。アルバムリリース後にまた別の楽曲のMVを公開することも多いですが、これは要するに当時の「シングルカット」と同じ考え方ですし。

一方日本のシングルは「アルバムからのカット」というよりは、シングルはシングルとして出して、追ってリリースするアルバムにそれを収録するというパターン多めです。主従が逆なので、じゃあその場合のシングル楽曲のMVの役割って何なのと考えたら、「初週の売上の最大化」じゃないのかと思うわけです。
MVでできるだけ世間の話題にしてもらって、それでもってシングルの存在やそのリリース日を認知してもらい、その週にさっくり店舗でCD買っていただいてオリコン上位、みたいな。

だとすれば、もう先行公開なんぞいらないんじゃねえの、という話です。

オリコンの順位を気にしているミュージシャンももう多くなく、アイドルですらCDを積もうとしているのは秋元康界隈と他一部のみになっています。チャート情報としてビルボードの方を取り上げる既存メディアもちょいちょい出てくるようになり、そうなるとYouTubeの再生回数も順位に反映されますので、先行でMV公開する順位的にはむしろ不利。
売上としてもCDだったら初週の順位が重要ですが、今はむしろどれだけ長く多く聴いてもらえるかがキモなので、初週を気にしたプロモーションとは全く違う形になります。
sumikaの今回の判断はそういう意味でもとても正しいと思うのです。

ただ、既にそっちにアジャストしているミュージシャンは、ばんばん配信で楽曲リリースしてMVも出して、それらが溜まったあたりでまとめて未発表曲ちょっと入れてアルバムとしてリリースという、50-60年代前半までのジュークボックス時代の「アルバム」の概念にどんどん遡っているのが、状況としてはおもしろい。
おもしろいんですけど、アルバム単位で聴くのがすごく普通というか、アルバム単位で好き嫌いを言うのが普通だったおっさんにとってはどんどん生きにくい世の中になっている。頑張れおっさん。