「握手会」と最近のCD売上のこと

音楽業界、「盤」を売るためにアイドル歌手が「握手会」を開催するというのは、自分が認識している限り1980年代からあったもので。

それらのほとんどはレコード会社の地方支社と地元のレコード屋が組んで、ちょっとした都市のジャスコとかのショッピングセンターであったり街中の公園のステージで開催され、数曲披露してからの握手会(もしくは購入したシングルジャケットにサイン会)という流れ。
私も、伊藤麻衣子さんがそういうキャンペーンで四日市の諏訪公園に来たのに行っています。可愛かったです。
当然ですが当時の「熱心なファン」の中には、何枚も購入して何回も握手する人も少なからずいらっしゃいました。そこらは今とさして変わりません。

菊池桃子等ごく一部は既に1980年代半ばの時点で「全国握手会」と称して大会場に大人数を集めての握手会を開催していたようですが、そういうイベントを他歌手も続々追随してメジャーな現象になるということは当時はありませんでした。
それは、会場確保や設営等の準備とスタッフ人員等に伴う事前支出が大きな負担になるため、相当なビッグバジェット以外そんなことできなかったという単純な理由だと思います。

ですので、「握手会ビジネス」そのものについてAKB48が「創始者」というわけではなく、そういうふうに過去から綿々と続いてきた握手会を、一気に超大規模化&ルーティーン化して産業レベルで成立させた存在、という感じでしょうか。
過去の握手会ビジネスとAKBグループとの差異は、端的に言えば「握手会ビジネスのイオンモール化」という言葉で比喩できるかと思います。前にも言ったことを再度言ってるだけですが。

元々は少人数&小規模、歌手自身が転々と移動しながら多くの会場を回る形で開催されていたものが、大都市圏の大会場で圧倒的な規模で行われるようになったわけで。
かつては熱心なファンが個人単位で行っていた「複数枚購入で複数回接触」を事実上運営側が推奨し、そういう層の拡大を促した、という点もこの時の変化として挙げられるかもしれません。

「AKBグループ」という存在の、圧倒的な過去との相違点として、メディアを使用しての空中戦からどぶ板の地上戦までを一貫したブランドでもって実施できるだけの人数規模(キャラクターの差異も)であったことを生かしまくって、大人数を集められるだけの認知に繋げていったことが大きいと考えていますが、そんな認知拡大と共に、インターネットが一般にまで広がったことで口コミを拡大させやすく、また告知が圧倒的にしやすく&届きやすくなったこと、高速道路や新幹線が地方と都市を繋いだことでファンの移動が容易になったこと、大規模な握手会を開催できるだけの大きな「箱」が各大都市圏にできていたこと等、様々な周辺的な要因も込みで、AKBが「イオンモール化」を実現できたのだろうと考えます。

そして「劇場盤」とかもありますが、そういうビジネススタイルで運営していたアイドルグループが、各地のCD店の売上の中で相当な割合を占めていたことは間違いないわけで、海外で「新譜CD販売」という業態がほぼ絶滅状態である中、そういう売り方ではあっても店舗型の「CDビジネス」が生き残るのを支えたひとつの大きな要素であることには間違いありません。

しかしコロナ禍でそんな「大規模握手会ビジネス」はとどめ刺された感はありまして、AKB48の5月リリースの最新シングルは33万枚。正味それでもまだ頑張ってると思える数字ですが、一時期と比較するとそれはそれは減りました。
それ以外の接触上等型のアイドルグループも軒並みピークから見れば相当に売上数を減らしています。

それによってCD店も一蓮托生ですごい勢いで減っていくであろうと、正直思っていたのですが、ここ2年もちろん店舗数は減ってはいるのですが、何となくコロナ初期に想像していたよりも「踏ん張っている」感がありまして。
TSUTAYAは着々と減っていますが、郊外型の「書籍販売兼CD販売兼レンタル」型の店舗は都市型の「レンタル専業」店舗よりも減少の幅は低め。その他CD販売の大手チェーンも減ってはいますが、以前に「数年後を想像」した状況よりは「まだ維持している」と思えます。体感ではありますが。

そういう体感レベルに更に仮説を乗せてしまって恐縮ですが、オリコンのCDチャートの方を眺めていて「生き残っている」のひとつの理由として挙げられるのが「CDを売りたいタイプの男子ダンス&ヴォーカルグループ」の増加ではないかと思っています。

ジャニーズが、もちろん現役各グループ元気に活動中とはいえ、メディアの支配力というか影響という意味では数年前より相対的に低下した結果として、テレビ局が積極的に新しい男子ダンス&ヴォーカルグループを継続的に番組で応援する、というパターンがちょいちょい出てきています。

コロナ期間中に新規で、地上波メディアでも紹介されながらデビューした日本の「男子ダンス&ヴォーカルグループ」は以下の3組ですが、正味かなり盤を売りまくっております。

■JO1(2020年メジャーデビュー)
2020/03 1stシングル:394,000(3種)
2020/08 2ndシングル:330,000(3種)
2020/11 1stアルバム:195,000(4種)
2021/04 3rdシングル:317,000(3種)
2021/08 4thシングル:369,000(3種)
2021/12 5thシングル:450,000(4種)
2022/05 2ndアルバム:261,000(5種)

■INI(2021年メジャーデビュー)
2021/11 1stシングル:588,000(3種)
2022/04 2ndシングル:642,000(3種)

■BE:FIRST(2021年メジャーデビュー)
2021/11 1stシングル:220,000(5種)
2022/05 2ndシングル:146,000(5種)

一方相対的に低下したジャニーズも、メディアとのコネクションを駆使して各グループのメンバーをバラエティ等でガンガン露出したり新グループをこれまでより速いペースでデビューさせて対抗。
ジャニーズ勢がコロナ禍以降にリリースしたCDの売上はこんな感じ。過去5年内にデビューした4組を見てみます。

■King&Prince
2020/06 5thシングル:603,000(3種)
2020/09 2ndアルバム:636,000(3種)
2020/12 6thシングル:618,000(3種)
2021/05 7thシングル:507,000(3種)
2021/07 3rdアルバム:509,000(3種)
2021/10 8thシングル:484,000(3種)
2022/04 9thシングル:502,000(3種)

■SixTones
2020/07 2ndシングル:761,000(3種)
2020/11 3rdシングル:532,000(3種)
2021/01 1stアルバム:610,000(3種)
2021/02 4thシングル:529,000(3種)
2021/08 5thシングル:557,000(3種)
2022/01 2ndアルバム:558,000(5種)
2022/03 6thシングル:440,000(3種)

■Snow Man
2020/10 2ndシングル:1,145,000(3種)
2021/01 3rdシングル:1,030,000(3種)
2021/07 4thシングル:936,000(3種)
2021/09 1stアルバム:989,000(5種)
2021/12 5thシングル:843,000(3種)
2022/03 6thシングル:856,000(3種)

■なにわ男子
2021/11 1stシングル:909,000(7種)
2022/04 2ndシングル:595,000(5種)

ものすごくCD売れています。全部合計したら女子グループの目減り分くらいは埋められそうな勢いで。
ただでさえ新興勢力が盛り上がっている中、実はジャニーズ勢も「事務所所属グループの総売り上げ枚数」でカウントすると、SMAPの「世界で一つだけの花」がメガヒットしたとか楽曲単位の大ブレイクがあった年を除けば、2020-2021年は過去最大レベルに達しています。

これらのグループは積極的に接触イベントを行うタイプではないですが、特にボーイズグループのファン界隈で目立つのが「追い〇○○」というアクション。
「○○○」にはその時リリースされた楽曲やアルバムのタイトルが入ります。

フラゲ日に購入するのは当然として、土日にオリコン集計対象のCDショップを巡回し、さらに可能な限りの在庫を買い足すという行動をかなり多くのファンが行っています。
最近リリースされた盤で言えば、JO1の5/25リリースの2ndアルバムは「KIZUNA」というタイトルですが「追いKIZUNA」でTwitter検索すると、だいたいのニュアンスを理解していただけるかと。

これらの行動は、応募特典の口数を最大化することが概ねの目的ですが、オリコン集計対象のCDショップに発売週の日曜まで実施することが通例でして、それは要するに翌週のチャートに枚数としてカウントされるためであり、「売上に少しでも貢献する」ことを目的としているところもある行為でして。
恐ろしいほどのファンの底力を感じます。

「盤販売の権化」であり、今もそうあり続けるジャニーズの「事務所としての地位の相対的低下」によって「CD販売したい」勢がむしろ増加し、その増加に対してジャニーズが今の力で迎え撃ったところ割と各陣営が「本気で頑張りまくる」こととなり、「ボーイズグループ」という括りでは現在が史上最強にCDを売りまくっているという事態。
正直、実際に目の当たりにするまで想像すらしていませんでした。何だこの状況。

こういう状況をどう評価するのかは各人の捉え方それぞれだと思いますが、この結果としてCD販売店舗が生き残るのであれば、私は素直にうれしいです。

で、「キャバクラ」発言の作詞家の方についてですが、そこを気にする以前にそもそも過去の日本が単発のヒットではなく業界として「失くすほどの国際競争力を持っていた」時代のことを浅学にして存じ上げておりませんので、私は何とも言えません。