タワーレコード新宿店が規模を縮小すること

昨日、直前と言っていいタイミングでタワーレコード新宿店から出てきた割と衝撃的な告知。

現在は7-10階の4フロアある店舗を、8月30日からフロアを順繰りに休業させていき、10月8日からは9-10階の2フロア体制になるというもの。

タワーレコードはサブスクが全盛になってもコロナ禍になっても、店舗数を減らさずにここまで来ました。
この数年で3店舗オープンさせて閉店したのは今年3月、リモートワークだらけになったビジネス街近辺にあったTOWERmini汐留店のみで。

とはいえ、チェーン各店が順風満帆なはずもなく、郊外型の店舗を中心に観察できた限りでは、売れ筋J-POPを入り口付近に陳列している他は、まだパッケージの販売が堅調なジャニーズ勢、その他男性アイドル、女性アイドル、アニメ・ゲーム・声優系、K-POPにほぼ特化。
パネル展示等のスペースを設けている分商品棚は撤去され、元々タワーレコードの強味であったはずの洋楽の品揃えは限りなく縮小されています。まあサブスク考えればそりゃそうなるという感じではあるのですが。

一方、旗艦店である渋谷店では2019年1月、まだパッケージが売れるアイドル系を中心に、店内でイベントを開催できるスペースを拡大することで、グループの認知を上げ、また特典会参加用のCD販売を並行して行うことで顧客を囲い込む戦略へ大幅に振り切った形の大幅な店内リニューアルを決行、また墨田区の錦糸町パルコには2019年3月、店内の相当な面積をイベントスペースに割ける構造とし、ほぼそういうジャンルのCDに特化した新店舗を出店。

また、新宿店はアナログの堅調な売り上げを狙って、こちらは2019年3月に4フロアのうち1フロアをアナログ専門店「TOWER RECORDS SHINJUKU」とする形のリニューアルを実施、「まだCDが売れるジャンルの販売強化」と「売れ続けるアナログ盤の品揃え強化」という、パッケージ販売に残った2つの鉱脈に生き残りをかけて戦いの準備を万端整えたのですが。

その準備からわずか1年、コロナ禍によって大きく計算が狂います。
都心に出る人が減り、また大勢が集まってのイベント開催が極めて困難になった結果、「店内でイベントを開催できるスペース」になるはずだった場所はただの空き地と化し、いまだに以前のように開催できるかどうか、全く先が見通せない状況が続いています。
かくして2つの鉱脈のうちの1つには、期待もできず、この先の予定や売り上げの推定すらできなくなってしまっています。

その空き地は当然ですが、イベントを開催しなければ1円も儲けを生み出しませんのでただ遊ばせておくこともできず、特にえげつないレベルの空き地が広がっていた渋谷店の5階のイベントスペースは現在K-POPのグッズ等の棚が並んでいます。
しかし実際のところ、複数枚のCDを積んでくれる上客が長蛇の列をなす「予定されていた状況」とは比較すべくもなく。

そして、今後完全にコロナ禍が去ったとしても、当初に予定していたように多数のイベントを開催できるかどうかもかなり不透明です。

まずここまでタワーレコードのイベントスペースをいわば主戦場としてきた女性アイドルグループですが、「タワーレコードのイベントスペース」を適正なサイズ感としてきた中堅どころのアイドルグループが、こちらもコロナ禍の影響もあってすごい勢いで解散しています。
要するに、スペースがたくさんあっても、そこを元々埋めてくれていた演者の絶対数が減っています。

そして2010年代後半からそれまで以上に男性アイドルシーンも盛り上がってきたのですが、その時の盛り上がりの中心はどちらかといえば「地下」に近いところで、タワーレコードが適正サイズと言っていいグループもいくつかいました。
が、それらの男性グループも活動が思うようにできなくなっている状況下、昨年くらいからTV局主導で展開されるボーイズ・グループが複数誕生し、これからもいくつかデビューしそうな気配もあり。
それらのグループはスタートの時点でビッグビジネスな分、イベントスペースのサイズ感とはハナから違うわけで、CDはタワレコで買ってくれるかもしれないけれど、彼らにとってイベントスペースの必要性は皆無です。

かくしてこの1年半でコロナの影響その他でいろんな構造も変わってきまして、現在はもちろん将来にわたって「店内でイベントを開催できるスペース」の必要性が以前と比べて相当に小さくなっている、と言っていい状態。

今回の発表の直前、9月23日に「TOWER VINYL SHIBUYA」のオープンが発表されていたのですが、これが「調子がいいので2店舗目」ではなく「渋谷への移転」なのは、1棟借りのため融通が利かない渋谷店に、新宿店が持っていた機能も含めて集約させて、融通が利く新宿店の方の規模を縮小して適正化を図るという方針。

確かに適正化は図れると思いますが、当初目論見から縮小してのこれであり、2大旗艦店でのこれですので、既に偏った品揃えでギリギリ感ハンパない地方店舗への影響もないとは言えず。
これまでずっとあった「何となくヤバげ」という感覚から割とリアルな「ヤバい」になってきました。

アナログと書籍への依存度を徐々に高めているHMV、本店の路面部分をテナントに回しつつ郊外の小型店を切りにかかっている山野楽器、為す術なくダラダラと店舗数を減らしていく新星堂。チキンレースもいよいよ佳境に入ってきた感じです。