「筒美京平 SONG BOOK」のこと

筒美京平楽曲のカバーアルバム。生前から企画されていたということですが、結局本当の意味での「トリビュート・アルバム」的な形でリリースされました。

これがとてもいい。
通常のカバー曲集、トリビュート・アルバムは企画から各ミュージシャンの担当曲を決めたら相当な部分はミュージシャン側に丸投げなところが多いわけですが、このアルバムは、サウンド・プロデュースこそ、武部聡志氏の他に亀田誠治氏、本間昭光氏、西寺郷太氏、松尾潔氏、小西康陽氏が名を連ねていますが、総合プロデュースとして武部氏ががっつり全体を束ねていて、アルバムとしての全体的な一貫性は抜群。

そしてそういう形ですので、「sumikaの片岡健太」「DISH//の北村匠海」「TUBEの前田亘輝」という形での参加者はいるものの、あくまでもヴォーカリストとしての参加ですので、若手バンドが自分たちの解釈によるほぼコピーとか早めのエイトビートにしただけとかの「浅い」リアレンジをした結果の正味つまんねえ楽曲。みたいなのは皆無。

というか、アレンジも大変にいいのですが、でもこのアルバムの真骨頂は「どの曲にどのヴォーカリストを当てがうか」の選択の素晴らしさ。
橋本愛の「木綿のハンカチーフ」のエゲツないレベルの儚さを筆頭に、JUJUに敢えて元曲は男声の「ドラマティック・レイン」を歌わせたり、少年隊「君だけに」をフルオケでリアレンジしたトラックに西川貴教の声を乗せたり。LiSAの「人魚」は、Aメロを聴くだけで彼女が「声量お化け」なだけのエセ「歌うまい」歌手ではなく本当に歌える人なのだということがわかる。

他もとにかく曲に合った声を選んでいるのですが、最強なのは斉藤由貴の「卒業」を乃木坂46の生田絵梨花が歌ったの。この曲にこの声、もう何度でも聴ける。最高に耳が気持ちいい。
唯一難点があるとすれば、「ごめんね んーん」の「んーん」のところをいくちゃんは「うーう」と歌っているところ。そこは「うーう」じゃなくて鼻に抜けるような「んーん」だったら本当に最強だった。

そしてアレンジで最強だったのはmiwaが歌う「サザエさん」。この曲は自分が高校生の時「このアレンジ、モータウンじゃねえか」ということに気付き、初めて筒美京平氏を意識した楽曲なのですが、元曲は一番古いタイプのモータウン的アレンジだったのが、このリアレンジではもう少し新しいタイプの、でもやっぱりモータウン的アレンジにはなっている。これ本当に面白い。

本当にいろいろ挑んで、いろいろ実現しているアルバムです。
カバーのコレクターは諦めましたが、でも聴き続けてきてよかった。