サブスクに楽曲がない理由を考えたこと

先日はストリーミングサービスに楽曲がない事例をいくつか拾ってみたんですけど、次に考えるのは「じゃあ何でないんだろう」ということ。
ゴールデンウィーク中、Apple MusicやSpotifyでいろいろ検索しながら、「聴きたい曲がない」理由はいくつかのパターンに分けられるのではないかと思い、やってみた次第です。

■一部のレーベルの音源だけないパターン
邦楽でも、レーベル移籍の経験があるミュージシャンで、こっちのレーベルの音源はあるのにこっちのレーベルのはない、というパターンが散見されますが、こと海外の80-90年代にデビューしたミュージシャンの場合、初期の零細レーベルからの音源が見当たらないというパターンが非常に多いです。
Primal Screamのデビュー・シングル「All Fall Down」は知り得る限りでは、バンドとして公式にCDとして出したのは日本限定のベスト盤「Shoot Speed (More Dirty Hits) 」だけですが、ストリーミングの場合、原則日本限定盤とかあんまりありませんので、盤自体がありません。なので、現状ストリーミングで「All Fall Down」を聴く手段がありません。

■シングルのカップリングまで手が回っていないパターン
シングルのA面曲はアルバムなりベスト盤なりに収録されることがほとんどですが、ストリーミング楽曲のケアがシングルまで行われていない場合、「カップリング曲集」みたいなアルバムをリリースしていなければ、カップリング曲が置いてけぼりになります。
New Orderで一番好きな曲は「Let's Go」という方、自分も含めて少なくないはずなのですが、この曲は、ほとんどデモ状態のインスト・ヴァージョンがサントラに収録された後は、シングル集「Substance」リリースにあたっての新録曲「True Faith」のシングルリリース時のカップリングとしてリリースされた「1963」が、「The Best Of New Order」に収録されるにあたってリメイクされてシングルとしてリリースされた時のカップリング曲がヴォーカルまで入った完パケの「Let's Go」だったという非常に面倒臭い楽曲。
収録されているのは「1963」の一部種のシングルと、ボックスセット「Retro」と、コンピ盤「International」の一部の国の盤のみ。
果たしてNew Orderのストリーミングは、シングルはここ最近のものしかなく、「International」はベスト盤等の乱立を防ぐためか存在せず、ボックスセットの音源もありません。
もうね、がっかりですよ。

■アルバム収録曲だけど「シングル・ヴァージョン」がないパターン
たむらぱんは、自分が考えるところの「00年代最強の天才女性SSW」ですが、だいたい全部の音源がストリーミング配信されています。配信されていないのはガムのCMソングになった「オオカミ少年ケン」の替え歌とシングル「SOS」と「ココ」の2枚。そのシングルの表題曲はいずれもアニメの主題歌であり、そこの権利的なところが理由かと考えているのですが、「SOS」の方はほぼ同じヴァージョンがアルバムにも収録されているので問題ありません。
が、「ココ」の方は、アルバムに収録されたヴァージョンがシングルとは全く異なるアレンジのため、聴かれている数は多いのに、アニソン好きの方にとっては「俺が聴きたいのはこれじゃない」方しかないという悲しい状態になっております。

■マスターが消失してるんじゃないかパターン
ストリーミング音源を制作しようにも元々のマスターがなければやりようがありません。
Dead Or AliveのSONY所属前、インディーズ期の音源は恐らくそうであろうと思われます。
ピート・バーンズの晩年、著作権を売却するくらい窮乏に陥っていたにもかかわらず初期音源がCD化されたりといったアクションがなかったのは、そもそもCD化できなかったのだろうと。

■ミュージシャン側の意図がありげなパターン
「そこらへんの楽曲は黒歴史だから触ってくれるな」という判断をしたものとか。
別に本人が公にそう言うはずもなく、想像するしかないのですが、Julian Copeなんかそういう意志をひしひしと感じます。
ないのは「World Shut Your Mouth」「Saint Julian」「My Nation Underground」の3枚。Island期の音源でも「Fried」や「Jehovakill」はあります。要するに「ポップミュージックとして最も真っ当な」3枚だけないのです。
ベスト盤はあるので、シングル曲の大半はそっちで聴けるのですが、正直何でこういう判断をしたのかはわかりません。キャリア的にはもうあのよくわからないサイケ路線の方が長いので、そこから何となく察するしかありません。
長渕剛のストリーミングに「雨の嵐山」がない理由は非常によくわかります。

■チャリティー・コラボレーション楽曲のパターン
Band AidやWe Are The Worldは、ストリーミングにあるのですが、こと日本に関してはテレビ番組のチャリティー企画でリリースされた、複数ミュージシャンによるコラボ楽曲はほとんどストリーミングにないというか、オリジナルのシングルCDリリース以降世に出ることがあまり多くありません。
そういうのが多めのユーミンの事例を並べてみると、

1985:「今だから」(松任谷由実、小田和正、財津和夫)
1992:「愛のWAVE」(松任谷由実・カールスモーキー石井)
2000:「Millennium」(Yuming+Pocket Biscuits)
2006:「Still Crazy for You」(クレイジーキャッツ&YUMING)

以上、彼女が制作に携わり盤としてリリースされたものだけですが、いずれもストリーミングにはありません。
各ミュージシャン間の権利の問題、またチャリティの場合にはその団体の活動が期間限定だったりすると、今さら小銭稼がれてもそれをどうしていいかわからん、みたいな事情があるのかもしれません。
桑田佳祐&Mr.Childrenの「奇跡の地球」が「TOP OF THE POPS」に収録され、ストリーミングにも入ったのは、Act Against Aidsという継続して存在している団体がベースだからこそ可能だったとも考えられます。

■Peel Sessionsの音源パターン
UKの伝説的ディスクジョッキーJohn Peelのラジオ番組でのスタジオ・ライブ音源。レコ屋で80-90年代のバンドを掘った経験があるなら知らない人間はいないと思います。録音時にはまだレーベルとの契約がないバンドも多く、それらの音源は多くのバンドの通常のオリジナル音源とは別に、Strange Fruit Recordsというレーベルから盤としてもリリースされました。
中にはThe Smithsのようにそこで録音された音源の一部をオフィシャルな音源としてアルバムに収録するとか、エコバニのように複数回のセッションをまとめて正式なアルバムとしてリリースするといった事例はありますが、そういうの以外には見当たりません。
Strange Fruit RecordsはJohn Peelの亡くなった年と同じ2004年に閉鎖して、権利はどうもBMGが持っているっぽいのですが、現状では一切なし。

ざっくりとこんな感じです。
ただ、My Bloody Valentineが一度解禁したはずの音源を、昨年に全部引き上げてそのままほぼ存在していない点については、よくわかりません。
察する限りでは山下達郎とだいたい同じ理由ではないかと思います。