HMVのここまでの店舗展開のこと

前回はタワーレコードの話をしたので、今度はHMVの話をします。

とかいってタワーの話の続きからなのですが、タワーレコードの1号店は1980年の札幌、以前から無断で屋号を使用していた輸入盤屋を追認する形というギャグのような1号店でした。それ以降1990年代に入るまでは基本「輸入盤専門店」でした。
自分はまだ1980年代末の旧渋谷店(東急ハンズのはす向かい、現在はローソンとサイゼリヤが入っている建物の2-3階)に行った記憶があるのですが、実に薄暗い照明の中、まだLPサイズの棚や箱に合わせるべく長方形のボックスに収められていたCDが段ボールに雑然と並べられていた、本当に普通の輸入盤屋の床面積でかい版にすぎなかったことを記憶しています。それでもあの物量にはそりゃテンションは上がるわけですけど。

で、HMVの話。タワーがまだそんな薄暗い輸入盤屋風情を残していた1990年の渋谷のもっといい場所に1号店を設立したわけです。輸入盤と国内盤のエリアを分けてどちらも豊富に取り扱い、しかも相当に洒落た印象の店内。「渋谷系」が生まれたのはそのようなHMVの印象も背景にあったと思っています。洋楽でも渋谷系に近い音楽性を持ったミュージシャンをレコメンドしまくり、Out Of My Hairとかすごく鬼のように推されて実に局地的に売れていたのを覚えています。

そんなHMVの企業としての最大の危機はその渋谷店まで撤収を余儀なくされたあの冬の時代。2009-2010年頃が見た目上の「底」になります。
そこで2009年度-2010年度にかけて閉店したHMV店舗を列挙してみます。

2009/04/25 HMVホークスタウン
2009/07/20 HMV箕面マーケットパークヴィソラ
2009/07/26 HMV高崎VIVRE
2009/08/02 HMV 109MACHIDA
2009/08/16 HMVイトーヨーカドー奈良
2009/08/20 HMV岡山
2009/08/30 HMV池袋サンシャイン60通り
2009/09/06 HMV数寄屋橋
2010/01/07 HMV新宿タカシマヤタイムズスクエア
2010/02/26 HMV京阪シティモール
2010/02/28 HMVアクアシティお台場
2010/05/09 HMV川崎DICE
2010/06/20 HMV銀座インズ
2010/07/19 HMVイオンモール草津
2010/07/25 HMVスマーク伊勢崎
2010/07/31 HMV京都河原町VIVRE
2010/08/15 HMVイオン上里
2010/08/17 HMV吉祥寺PARCO
2010/08/19 HMVイオンモール浜松志都呂
2010/08/22 HMV渋谷
2010/08/29 HMV川西モザイクボックス
2010/08/31 HMVキャナルシティ
2010/09/05 HMVイオン大高
2010/09/12 HMVイオンモール名取エアリ
2010/09/20 HMVイオン土浦
2010/09/23 HMVイオン姫路大津
2010/09/26 HMVリバーウォーク北九州
2010/09/27 HMVイオン仙台泉大沢
2010/09/28 HMV新百合ヶ丘SATY
2010/09/30 HMVアミュプラザ鹿児島
2010/11/07 HMV仙台一番町
2010/11/28 HMVアリオ鳳
2010/11/30 HMVモラージュ菖蒲
2011/01/11 HMV横浜VIVRE
2011/03/21 HMVくずはモール
2011/03/27 HMVモザイクモール港北
2011/03/28 HMVあべのHoop

この毎週とか隔日というレベルの閉店っぷり。正直、この時は「HMV終わったな」と思いました。1990年以降20年かけてコツコツ開いてきた支店が2年で半減に近いレベルにまで減ったわけですから。

何が起きていたかというと、やっぱり株式譲渡の際のいざこざ。
2007年に投資会社がHMVジャパンの全株式を取得し、2009年には完全に海外親会社と切れて国内資本化。株はTSUTAYAというかCCCに売却する予定だったのですが、条件が折り合わずに決裂。結局2010年12月にローソンの手に渡って今に至るのですが、上記の2年は投資会社が株を持っていてかつ海外の親会社からも切れていたという時期におよそ重なるわけでして。
経営にすごく口を出すタイプの投資会社だったわけですね。
そりゃそれなりのゲインがあると判断して株を引き受けたわけですが、すごい勢いでCD売れなくなり、資産価値は減る。少しでもダメージを減らすため、床面積単位の家賃が高そうな大都市圏の店舗を狙ってコストをガシガシ削っていったことが見て取れます。
それは旗艦店の渋谷ですら例外ではなかったということで。

株がローソンの手に渡って以降、閉店は激減し、というかこの冬の時代以降にアウトレットや小型店舗等の特殊な実験店舗ではない通常のHMVで移転なく閉店したのは、

2011/09/25 HMVアリオ川口
2013/01/06 HMVアリオ八尾
2014/01/13 HMVららぽーと甲子園
2014/02/28 HMVアトレ目黒
2017/08/28 HMV広島本通

これだけ。何だこの差。さらに破産したWAVEの跡地に入店したり、タワーレコードがセブン&アイグループに入ったせいでイオンから追い出されたその後に入店したりして、すごい勢いで店舗数を回復していきます。
というか、上記店舗のうち2店はアリオ内に入店していたものであり、セブン&アイグループもタワレコ追い出されているだけでなく、自分のところのショッピングモールからはHMVを追い出していたわけですね。店舗数の規模がまるで違うからこんななんですけど。

で、閉店も減ったし今は安泰かと言うと、とてもそうは思えないのがHMV。
大都市圏の大型店舗を失ったダメージは大きく、かといって今から専業の大型CD/DVD店を大都市圏に出すのは酔狂でしかありません。なので蔦屋書店商法の「HMV&BOOKS」形態の店舗を渋谷と博多に出してみたりしているのですが、少なくとも渋谷店はとても繁盛しているとは言えない状態で、疲れたインバウンドの皆様の休憩所みたいになっています。

別業態に展開しようにも、ちょうど他のチェーン等がそういう実験を開始した時期がHMVが一番しんどかった時期と重なって出遅れ、結局「HMV&BOOKS」というどっかで見た感のある手法か、「HMV record shop」は、目の付け所はよいのですが、今後の通常店舗のCD売り上げの減少分を拾いきれるほどの規模で商いを行うことがそもそもできず。というか「音楽パッケージを売る」というところから離れられない。

ですので正直、パッケージ全般がヤバくなってきたときにはタワーレコードよりも相当厳しいのではないかと思います。
そんなHMVですが、HMV&BOOKS SHIBUYAでは、今年の夏にアイドル界隈で最もブレイクしたアイドル、Task Have FunのCDがライブイベント会場の物販以外でたぶん日本で唯一買えます。新曲も出たよ。

20年ちょっと前と今との「渋谷のHMVで推されているCD」を並べてみたかったんです。