ドレスコーズ「平凡」のこと

ドレスコーズ / 平凡 (Album)

一聴して「Talking Headsだ!」と思いました。つまりあのアー写は「Stop Making Sense」へのオマージュか、とも。
でもきちんと聴いてみるとそれだけじゃない。P.I.L.っぽいところもあるし、Rip Rig & The Panicのように聴こえるところもあるし、後期The Clashの匂いも一瞬感じたりする。
「パンクとは解体であり、ニューウェイブとは再構築である」なんて使い古された言葉ではありますが、そういう意味でもとてもニューウェイブ的。

パンク以降、様々な音楽的な試みがなされ、そのうちのいくつかはポシャり、そのうちのいくつかは新たなスタンダードとして後世まで続いていくことになるわけですが、ここで聴こえてくるのはそれらの既に「過去」になってしまったはずの音をもう一度「試み」として鳴らしてみようという実験の意志。そしてその実験は間違いなく成功しているんじゃないかと思います。
少なくとも、発表当時にはかなりの問題作だったはずの「人間ビデオ」が、本編から切り離されておまけトラック的に放り込まれているという、その意味は馬鹿みたいに伝わってきます。本当にいろいろと全くの別物ですから。

原則できるだけ広い範囲の音楽をできるだけ楽しく聴こうと努めてはいますが、正直一番食指が伸びないのは「ベテランミュージシャンが4年ぶりにリリースする前作の延長線上にある音楽性の佳作アルバム、3年前のシングルも本編に収録」という奴です。そのミュージシャンのファンじゃなかったらそれのどこが面白いんすか、と思うのです。

だからもうバンドメンバー入れ替わりまくり、志磨くん本人の経験値が溜まる以外、前にやった音と何の繋がりもない感じの今のドレスコーズ最高です。
バンドの解散やらメンバーの脱退やら、それは悲しいことなんだけど、たとえば2人になったチャットモンチーが悪戦苦闘の末に獲得した圧倒的な自由、それに極めて近しい状況を今の志磨くんには感じます。

ずっと、今の日本の音楽業界で次にスターになれるのは志磨くんしかいないんだから頑張ってほしいと思ってきましたが、今回これ聴いてもうどうでもよくなりました。というかこの「平凡」というタイトルも、70年代までのロックスター全盛期から打って変わって80年代のニューウェイブ以降のさしてスターっぽくないけど何か音楽的に面白いことやってる奴らがそこここにいる、という状態を表しているような気もして。

志磨くんにもずっと好き勝手にやってほしいです。多分それが一番面白い。