2016年の10枚のこと

紅白は副音声で見返せていないので、とりあえず2016年の10枚。

宇多田ヒカル / Fantome
紅白の彼女を観て、初めて「藤圭子の娘だ」と思いました。
ここまで閉じていて、死の匂いしかしない音楽がこれだけ売れてしまう現代日本はどうかと思うのだけど、開いた音楽だらけのヒットチャートの中、ひとつやふたつはこういうのが売れた方がやっぱり健全だとは思うのです。


スカート / CALL
この音も端正ではあるけど圧倒的に閉じた音楽。でも過去に遡って考えても、職人的な感性で作り出されるいいポップソングって概ねそういうもんだよね。
Pixiesの新作もまあまあよかったし、Modern Baseballの3rdもよかった。今後もジャケ買いならぬ「デブ買い」してもいいレベルで、デブが前に出てくるバンドはだいたい最高だと思います。


Galileo Galilei / Sea And The Darkness
作り手がラストアルバムと意識して作られたラストアルバムの凄み。最近の日本のメジャー所属のバンドが普通にできるミックス処理ではありえない音のバランスの塩梅。うまい位置取りができれば大化けもできるバンドだと思っていたのですが、残念です。


リーガルリリー / The Post
ここまで生々しく、演者のこれから先が見えない音源は他にそうない。ライブ観ても一切先が想像できない、圧倒的に「今鳴らされている」音。こういう危うい音もあっていいじゃないか。


sora tob sakana / sora tob sakana
amiinA / Avalon
2008年末から2009年初頭にかけて大阪のローカルアイドルamUを押しまくっていました。その唯一のアルバムとなった「Prism」はここに至るまで自分内のアイドル史上最高のアルバムだったのですが、2016年遂にそれを越えてくるアルバムが2枚も出てきたわけですよ。

sora tob sakanaはグループ自体のストーリー性が薄い分を、あり得ないレベルで強度の高い演奏とジュブナイル的な歌詞世界で十二分にカバーするだけの独特の世界観を構築していて、amiinAは新メンバーmiyuちゃん加入後のビジュアルや歌詞世界の全てが彼女のイメージを通じて一点に収束されていった感じが凄まじく、その世界観の位置付けの巧さの結果として、どれだけ音楽性を高くしてもそのアイドル性が全く失われていないところが特筆したいところ。
この2組はライブパフォーマンスも大変に素晴らしいのがポイントでありまして、だから「アイドル」の呼称を否定して「ダンス&ヴォーカル・グループです!」って言う人はそれは別に構わないんだけど、それで楽曲もライブもアイドルとして本気で活動している子たち以下だったらそれは何なのですかってことですわ。


DIIV / Is The Is Are
ブルックリンのネオサイケ馬鹿一代の2枚目。前作が評価されたためかもう揺るぎなく馬鹿。今年は本家ロンドンからも近い傾向のバンドPalaceが頭角を表してきたのですが、聴き比べるとDIIVは間違いなくアメリカのカルチャーなんだなとは思うようになりました。


Original Soundtrack / Sing Street
映画本体もいいですが、サントラは元Danny WilsonのGary Clarkのいい仕事です。80年代に当時のヒット曲に影響を受けて作られた当時の新曲という体のオリジナル・ソングの数々がいろいろと最高です。


Bon Iver / 22, A Million
前作でグラミー賞取った時に「神秘的」とか「荘厳」とかそういうスピリチュアルな物言いされたのが気に入らなかったんじゃないでしょうか。今作でのサンプル音とノイズを切り貼りしまくったイビツな作りはそうじゃないかと思うのです。でもトラックがそれ故に歌とメロディの強さがむしろ前作以上に際立っている感が。


ABC / The Lexicon Of Love II
2016年のThe 1975の何が面白かったって、テーマを80年代として本当にそういう作りになっていて、リアルタイムのそういう音は良識派ロックファンからはうんこだクズだと罵られていたのに、何故か2016年の彼らがそういう音を出すとロックの未来だ的に褒められているところ。実際ChainsmokersとかBastilleとかも過去の音との折り合いの付け方という点では近いバランス感の上に乗っている音で、今の世界の気分はこういう感じなんだろうと思いつつ、でも私はそういうのならもっとコテコテのが聴きたい。
だからデビュー30年以上経ってからいきなり原点回帰を掲げて、本当に当時まんまの怒涛のメロメロでロマロマな音を作り上げたMartin Fryはもっと褒められなければ駄目なのです。