昨日からずっと長渕のことばかり考えていたらまだ書ける。
考えてみたら今回のオールナイトライブはかなり特殊な面があります。

たとえばフジロックは今年3日間で115,000人を動員。
ですが、3日参加もいれば1日参加もいて、目当てのバンドのタイミングに合わせて朝早くから来る人もゆっくりめで来る人もいる。目当てが終われば大トリまで観ずに混む前に帰ろうという人もいれば、翌日のテントサイト撤収までゆっくりする人もいる。入場も退出も個々人の思い思いでもってバラバラで、それでもピークタイムはかなりの混雑というそんな状況。
が、今回のふもとっぱらは、メインアクトの開始も終了も全員にとって全く同じタイミング。最初から最後まで長渕しかいないんだから当たり前だ。時間の都合がつかない人が後から来ることがあるという程度で、全員のタイムラインがほぼ同じという他に全くもって類を見ない大規模ライブ。

何でこんな無謀なことをと思ったのですが、10年前に彼は故郷の鹿児島の桜島で7万5千人を集めてのオールナイトライブを成功させています。その成功体験から「都心に近い場所であれば10万人いける」と目論み、運営も桜島ではことさらに問題視されるような状況にまでは至らなかったことから、今回も実施を決めたのではないかと思います。
が、いろいろと当時との差異はあるわけで。

<会場>
そもそも何でそんな交通の便の悪い場所でやるねんという根本的なところ。「野外」「オールナイトライブ」という時点で都会のど真ん中でできるはずもなく、首都圏でオールナイトライブができる場所としてほぼ唯一にして利便性が高いのは、首都高湾岸線のインターからほぼ直結の東扇島東公園ということになるのでしょうが、川崎市の工場地帯の先という場所柄、長渕の情緒にはマッチしなかったのでしょう。つうか「10万人」前提だったら東扇島たぶん入らないわ。同じ縮尺でふもとっぱら東扇島、こんな違い。
「富士」のプレゼンスが彼のミュージシャンシップとして必須だとしたら、そして「10万人」が悲願だとすれば仕方ないんですが、でもそのこだわりの代償がこの立地。

<交通の便>
桜島のときも各地からのバスツアーは当然ありましたが、鹿児島市街地からのメイン交通は船でした。鹿児島港から桜島までのフェリーは所要時間15分。かつ使用されている船体は600-700名を一度に運べるサイズ。また、桜島の中までは自家用車で乗り付けられなくても、鹿児島市内までは余裕で来られますので、フェリーはそこからの巨大シャトル便という位置づけで捉えられます。
今回1台数十人単位で20kmの山道を必死こいて取り回すことになるバス運行とは、根本的なレベルの差があると言わざるを得ない状況です。

<高齢化>
長渕は他の同世代ミュージシャンよりは新たな若いファンを獲得できている方だと思うのですが、それでもやはり限界があり、要するにファンのメイン層は10年前から10歳老いているという紛れもない事実を軽視していないか、という仮説。
私も昔はクラブでやいやい朝まで遊んでいたものの、今は下手したら日曜の朝まで遊んだら水曜まで影響が及ぶため、よほどの事情がない限りオールは避けるようにしていますし、今もスタンディングのライブ上等ではあるものの、やっぱり椅子があるとうれしいお年頃。米米+プリプリ+TM@幕張も、先日のPERSONZ@武道館も、当然アリーナには椅子がびっしり並んでいたわけで、それがファン層の現在の状況を冷静に考えた場合のホスピタリティとして正しいことは明白。オールナイトのオールスタンディングと言われた時点で心が折れてもそれは仕方がないのです。
全員が長渕のように体を鍛えているわけじゃないし、「長渕が頑張ってるから俺らも頑張ろう」と思えるレベルのファンは残念なことにもう日本に10万人いません。

正味、「興味はあるんだけどなあ」というセグメントの中で調査をしたとしたら、焼きそばや牛串を食いながらビール飲みながら居眠りしながら、ゆっくり座ったり寝そべったりして呆けながら見ていたいという需要の方が確実に多いはずで、実際現地に行けばそういう過ごし方もきっとできるのでしょうけど、でも「レジャーですから!楽しいですから!呆けられますから!」という呼び込みを積極的に図ることは、長渕本人のとってのこのライブの「意味」と著しく矛盾するわけで、そのような行為は長渕とガチファンの手前、なかなかに難しく。


そんなこんなで、やっぱり企画の時点でこれ大変だよねと思うわけではありますが、かつてより「富士山の周囲で行う大規模イベントは総じてうまくいかない」というのは、伝説として語られてきたところではありまして。

1997 第1回フジロックフェスティバル(富士天神山スキー場):
まだ多くの日本人が大型音楽フェスというものの意味をわかっておらず、スタッフも慣れていなかったところにやってきた無慈悲な大型台風。悲惨な事件が数多く生まれた挙句に2日目中止。

2006 ウドーフェスティバル(富士スピードウェイ):
ある意味、日本音楽の歴史の1ページに刻まれた伝説のダメフェス。

2010 第1回JAPAN JAM(富士スピードウェイ):
ロッキンオンが「セッション」をキーにした新しいフェスとして立ち上げたものの、清々しいくらいに人が入らず、翌年以降場所を変え規模を変え主旨を変え、すごい勢いで迷走中。

音楽関連以外では2007年のF1@富士スピードウェイという生き地獄もありました。

ということで、ここらの土地で朝霧ジャムを越える大きな音を出すと概ねこうなるということですので、うまくいかなかったら富士の呪いということにして次に行こう。もし負債が出たら、それは何とかしてください。状況によっては「長渕、またテレビドラマに出る」「長渕、またCMに出る」フラグが立つかもしれません。万が一その時が来たら、背景を察してできるだけ見たり買ったりしたいと思います。でもギャンブルはやらないので、競輪の車券は買いません。