AKB48デイリー初動117万枚
今回は事前の「総選挙ありますよ」的な記事もあちこちに出ていて、さらに売る側の本気度のアップが見て取れたわけですが、結果はデイリー初動の新記録。何かもうものすごい。
自分は握手券投票券おまけ商法上等派ですが、それは別に自分がももクロとか好きだからというわけではなくて、それ以前からエグいとは思いつつも否定的な気持ちにはなれなくて。握手券とかなら昔からあるもので今はそれが様々なインフラの発達に伴って大規模化合理化してるだけでしょ、という話は以前からしているのですが、今回はもう少し自分の根っこの部分にあるぼんやりを何とか言葉にしてみる。


アイドルに限らずポピュラーミュージック全般を一般的な「アート」という範疇に入れることには自分は否定的ですが、それでも「アートをそもそもの発端としたコンテンツ」としてJ-POPを捉えた場合、過去のアートの有り様に戻っていっているような気がするんですよ。

昔、録音技術がなかった頃の音楽家の生活は、貴族やお金持ちのパトロンとして囲われたり、タニマチ的な出資者によって支えられていました。レコーディングが一般化した20世紀になってようやく、特定の誰かに属するのではなく、大量生産可能なプロダクツとしての盤を売るという形で収入を得ることができるようになります。

この、プロダクツとしての盤をいかに商品としてマスに訴求して売り捌くかという方向性は、世紀末の日本において最大化を迎えました。

が、その後マス訴求によるプロダクツ販売は頭打ちとなりみるみる衰退していくわけですが、かつてミリオンを連発したマスの権化的な存在だったミュージシャンに残ったのは、数は少ないものの圧倒的な求心力を保った熱狂的ファン。ミュージシャンに惜しみなく金を出してくれる、いわばタニマチに近い存在です。
そうなれば、ファンクラブイベントだったり、ディナーショーだったり、特別なセットだったり、以前より距離を縮め、タニマチを喜ばせるような方向に活動をシフトしている方が出てくるのも当然といえば当然。
もちろん減ったとはいえ随分な人数ですので、本来のタニマチ的な個人的な付き合いまでには及びませんが、一人あたりの拠出金額も本物には遠く及ばない分、言ってみれば「一口馬主」ならぬ「一口タニマチ」的な存在としてファンも納得ずくなわけですから全く問題はない。

今のJ-POPのプロモーションは概ね、一部の「着うた」系の方向性を持つものを除けばおよそそういう志向を持った方にいかに気持ちよくお金をたくさん出してもらうか、という方向を向いているのもそういうことで。

そして、ことアイドルポップスのプロモーションの場合、基本は昔からその「一口タニマチ」をゼロから作り上げること、魅力を高め求心力を強めることで出資者を募る行為に他なりません。
敢えて完成させないまま世に出し、「成長」をストーリーとして継続的に見せ続けるという露出の方向性は「思い入れ=求心力の強化」の方法としては基本的手法ですし、昔の芸術家とパトロンの間には男色を含む肉体関係が少なからずあったという話も聞きますが、そこも一口馬主的にその価値の細分化が図られた結果が握手という肉体的接触と考えれば納得できないこともない。

本来的な意味でのタニマチにとって至高の喜びが「贔屓力士の番付が上がること」なのは当然ですが、一口タニマチに対してその番付まで自前で用意したのがAKB48ということになります。しかも自分が入れ込んだ分が極めて忠実に番付に反映される形。まさに「うちの子が最高!」と言いたいがためのタニマチ魂に訴える企画です。燃えないわけがない。
一方そういうタニマチ魂を持ち得ない方々にとっては、複数買い等現状のファンの行為は理解できなくて当然でもあるわけで。
というか、極めてしまったオタの人は「ランナーズハイ」のような、常人には見えない景色を見ているような気がします。でも昔はお金持ちじゃないと見ることのできなかった景色を、「一口」な形でも普通の立場の人が見られるのであればそれは純粋に幸せなことだと思うし、何万円かけて複数買いするのも自分がAKBという枠より多少広いところですがほぼ同じ金額をCDにぶっこんでいるわけですし、実はさして変わらない。そもそも車にお金を使うのと、海外旅行にお金を使うのと、AKBのCD・握手会・総選挙にお金を使うのと、どのエクスペリエンスに一番価値があるかなんて絶対的に決められる類のものではないわけですし。


AKB、「一口タニマチ」をゼロから作り上げ、常にその意識を持ち続けてもらう形のプロモーションを継続し、それによって得た利益で徐々に過去のようなマスへの訴求も改めて取り入れてハイブリッド化を推し進めた結果の今この数字。しかも「アイドル」という看板のお陰でベテランミュージシャンでは過去に極めたことによる「格」のせいでできないような下衆なプロモーションも余裕で可能。当分誰も勝てないと思います。勝てるはずがない。

でも、「ビジネスモデルの海外輸出」というところにまで至ったわけですし、プロジェクトの当初のシナリオとしてはもうだいぶ終わりに近づいているような気もします。
今後後ろを書き足すのか、それともビッグビジネス化した現在の状況を、他地域のグループユニット等も合わせていかに長く維持し、もつところまでもったらあとはシュリンクするスピードをいかに緩やかにし、綺麗に端っこから畳んでいくかという方に方針をシフトするのか。
どちらにしろ、何年後か後に少数の「タニマチ中のタニマチ」だけが残るまでやり続けるという、今のモー娘。的な未来はどうしても想像できないんですよ。まあ、10年前にモー娘。が今こうなっているなんてことも想像できなかったんですけどね。

何にせよ、AKB48はその存在とかプロモーションとか、これまでにないスケールとアイデアとえげつなさに満ちていて、見ている分には本当におもしろい。今みたいな状態になる前、一度現場に行ってみようかなと思ったことがあったのですが、あの時即座に行動に移さなかったことを、別の「アイドルの現場」を知ってしまった今、けっこう本気で後悔しています。


つうことで写真3回目は明日は飲むのであさって。たぶん。